ニキビの治療薬が変わってきました。海外の標準薬が日本でも認可され、処方できるようになっています。商品名はディフェリンゲルとベピオゲルで、それを成分とした合剤も発売されます。
旧来の治療では抗生物質を長期間使うため、耐性菌の誘導や副作用が問題でした。上記の薬は、長期的な有効性や安全性が高いことは間違いありません。でも刺激症状などの副作用が、一定の確率で出るようです。
顔が広範囲に腫れると困るので、最初は顔以外で使って試したほうが良いかも知れません。ただし、顔以外の場所は本来の適応ではありません。過敏症がないか調べるだけの意味です。
葉酸サプリメント
10年前くらいからビタミンの一種、葉酸に関する論文が目立つようになりました。主に中国人を対象とした研究です。4月の発表は、葉酸の補充で脳卒中が減るという報告でした{JAMA.2015;313(13):1325-1335}。
葉酸はビタミンB9の別称で、蛋白やDNAの合成に使われる物質ですので、不足すると貧血(悪性貧血)や粘膜障害(口内炎)、胎児の神経管閉鎖障害などを発症することがあります。妊婦さんには大事な栄養素です。‘妊活(にんかつ)’と称して、妊娠のために葉酸のサプリメントを勧める宣伝も見かけます。
また、葉酸は必須アミノ酸であるメチオニンの代謝に関わっていますが、メチオニンは脂質代謝に影響することから、葉酸不足にともなう代謝異常によって動脈硬化症状が出ると言われています。
先天性の代謝異常症の方が若くて血栓症を起こすことがあり、そういった点から葉酸と脳卒中の関係を疑う発想が生まれたのだろうと思います。
妊娠の初期、まだ妊娠に気づかない時期の葉酸欠乏は避けるべきです。アル中の方や、抗癌剤やリウマチの薬を使う方も、補充を考えるべき場合があります。
でも、葉酸を補う場合は注意が必要です。不思議なことに葉酸の補充によって癌が増える危険性が報告されています。細胞の発育を促進することが、癌細胞にも働いてしまうのかも知れません。このため、日本では葉酸補充に関する研究の実施は道義的にかなり難しそうです。よって、日本人の卒中への効果も確認できないだろうと思います。
中国の北部には食習慣の関係か、伝統的に葉酸摂取量が少ない地域があるそうで、そのような場所での公衆衛生、保健教育の意味での試験が、発表の元になっている事情があります。日本とは食事内容が違いますから、効果も違うかも知れません。
この研究での葉酸の補充量は、日本の推奨量の数倍程度で、中毒を来たすような量ではありませんでした。したがって、本当に卒中予防効果があるか不明としても、とりあえず葉酸を意識して野菜などを増やしてみるのは悪くないような気がします。必ず卒中を減らす保障はありませんが、栄養素を意識するのは良いことです。
葉酸は、その名の通り緑黄色野菜や果物に多く含まれます。植物だけでなく、肉類にも含まれているそうです。食品からの補充は危険とは言われていません。 野菜や肉類からの摂取で過剰摂取になることは、キロ単位の摂取でない限り心配ないはずです。 でもサプリメントによる補充、特に妊婦さんを対象にした売込みに対しては注意が必要と思います。
診療所便り 平成27年6月分より・・・・(2015.06.30up)