薬剤(過敏)性肺炎
薬剤によって起こる肺炎のことです。肺炎は菌が原因とは限りません。薬が原因で肺の細かな組織が壊れるかのような反応が起こることもあります。
有名なのは「小柴胡湯」という漢方薬によるものです。特に肝炎治療のインターフェロンと併用すると肺炎の発生率が高くなります。小柴胡湯が特別に怖い薬という意味ではありません。他の漢方薬でも起こりますし、漢方薬以外にもたくさんの原因物質があります。その他の薬剤としては、解熱剤、抗生剤、抗がん剤などを中心に、数百種の報告があるそうです。
代表的な症状は、から咳、倦怠感、呼吸苦などですが、初期には症状が揃いませんし、ほとんど無症状の人もいます。レントゲン検査でも正常、もしくは普通の肺炎と所見が同じですので注意が必要です。
肺癌の治療薬のイレッサという薬は、外国で有効性が明らかになったため、「なぜ日本に早く導入しないんだ!」と強く現場から要求された薬でしたが、いざ導入してみると予想よりも高い確率で肺炎を起こしてしまいました。人種によって反応が違っていたためです。患者さんが次々と血痰を吐いたりされたので、海外の報告との食い違いがはっきりするまで現場は戦々恐々としました。薬の導入の際には慎重にやるべきです。専門家、第一人者といっても予想できないことは多いものです。
薬を飲んでいる人は全て薬による肺炎を起こす可能性があると考えられます。でも、だから薬は飲まないでおこうと考えると、血圧や糖尿病など、飲んだほうが圧倒的に寿命が伸びる薬の使用の機会を逸してしまう結果にもなりかねません。安全性と治療の意義のバランスで薬を使うか判断すべきでしょう。
肺炎の病状が進むと肺が固まったような病状になり、酸素不足に陥ることもあります。疑いがあれば薬を中止し、酸素が不足すれば補うための入院が必要になります。炎症の程度が軽ければ薬を中止するだけで回復が期待できます。でも、時には炎症はすぐに治まりませんし、肺の組織の回復には時間がかかることもあります。呼吸状態が悪化するほどになれば、炎症を強力に抑える治療が必要になりますが、その治療による害も覚悟しないといけません。
診療所便りより 院長 橋本泰嘉 平成21年5月