以前は一年が随分長く感じられたものですが、最近は何をやっているのか解らない間に年末になる気がします。
子供の頃、手伝いで干し柿作りも随分やりましたが、我が家の子供は干し柿も生の柿も欲しがりません。柿は栄養分が多く、ちょっと前までは食べすぎて血糖値を上げる人も多かったのに、わずかな時代の違いで嗜好の変化は激しいものです。
きれいに並んだ干し柿には、仕事した達成感や味覚の記憶が混じった風情のようなものが感じられましたが・・・。
ボクシングとUKPDS
ボクシングではチャンピオンを目差す人もいるし、とりあえず今日は勝つという戦い方をする人もいるでしょう。ある意味、人生は戦い(夫婦喧嘩も含め?)なので、ボクシングは生き方の例えになります。
UKPDSという有名な研究があります。イギリスで糖尿病や高血圧の患者さんの治療法を調べた研究です。医者の説明の中には、必ずこの研究の成果が反映されているくらい大きな研究でした。この研究が終了した後の患者さんの経過が発表されました。その結果、血糖と血圧の意味合いが解って来ました。
@高血圧
高血圧は、敵のジャブに相当します。よけ続ける必要があります。一発でダウンしないとしても、ダメージ(血管に)が残ります。迷わずよける(治療する)必要があります。UKPDSで血圧の管理をゆるめた人は、すぐ病気が増えました。血圧は力学的に血管を傷めるので、当然の結果かも知れません。
A糖尿病
糖尿病は敵の執拗なボディーブローです。すぐに自覚できないかも知れませんが、後で強力なダメージを感じます。早めに治療しておけば、効果も残るようです。UKPDSで血糖を管理した人達は、その後も効果が続きました。糖尿病は代謝疾患ですから、速効型の影響を生じにくいのですが、徐々に血管を傷めます。
B暴飲暴食、タバコ
自信を持って攻撃して、逆に強烈なカウンターを喰らう選手もいます。「俺は健康に自信がある。どんな深酒も平気。」と暴飲暴食を続けた場合の急病に相当します。ダウンした後、立ち上がれるでしょうか? 敵に強烈なフックを喰らうこともありえます。他のパンチを全てクリアしていても、これだけで倒されます。さしずめ、タバコがこれに近いものがあります。血圧や糖尿病に問題がなくても、タバコだけで心筋梗塞や癌を起こします。自ら好んで敵のフックを浴びるようなものですが、傍から見ればおかしいことです。
C脳卒中、慢性腎臓病
衝撃が残りやすいアッパーカットやテンプル攻撃は、脳卒中に似ています。ちゃんと防御(治療)していれば・・と後悔しても、後遺症で足を引きずっては、それからの戦いにハンデが残ります。 減量の失敗は、慢性腎臓病に近いものがあります。あせってリングに上がっても倒れます。トレーニング(減塩、降圧などの治療)を続けて、戦える状態を保つための普段の努力が必要です。トレーニングを怠れば太りますし、スタミナがなくなりますから、戦いは苦しくなります。もちろん、トレーニングも辛いのですが、得るものはあります。
チャンピオン(無病息災、長寿)には誰でもなれるわけではありません。素質も必要でしょう。でもチャンピオンになれないからと、戦いを破棄することはできません。生まれた時からリングに上がっているのですから、逃げても無駄です。戦うしかありません。健康管理は戦いです。こう言っている私は、どうやら口うるさいトレーナーみたいです。
野次を飛ばしてくるばかりか、練習しようとする選手に、「俺はお前の大ファンなんだ。ちょっと宴会に付き合えよ。」「アイスクリーム食べない?」などと、余計なちょっかいを出す観客もいます。せっかくの努力をふいにしてしまいかねない誘いは、身の回りにたくさんありそうです。リングサイドの美女(お酒、お菓子)に心奪われる選手も多いでしょうが、これに気をとられると命取りになります。
診療所便り 平成20年12月
ジャブ=高血圧 ボディ=糖尿病