ディオバンという降圧薬の試験結果が操作され、製薬会社に都合の良い結論が出ていたと報道されています。問題の薬は、内臓や血管を保護する薬として宣伝されていました。国内では同じ系統の薬の中で最も売れていたそうです。第一選択薬として処方する専門医もいました。    
当院ではディオバンを使っていません。論文に疑問を持っていたからです。ただし、論文の結論が間違いかどうかは判明していません。特有の臓器保護作用が本当にある可能性は残っています。 また、仮に試験が完全に捏造であっても、薬に害が多いことは意味しないので、飲まれている方が処方を変える必要はないと思います。急に止めるのは危険です。  
薬の効果を調べる臨床試験は、薬の売り上げや医者の名誉に直結するため、データが操作される危険性があります。その傾向は国内に限りません。臨床研究の数割は捏造を否定できないという論文があるほどです。有名な教授、専門家(あるいは有名であるほど)も信用できない状況は残念です。      


  朝食を抜くと健康に良いか?           

朝食を食べると太ると言われる方がおられます。肥満は成人病の原因になるので、もしかすると朝食を抜いたほうが体に良いという理屈も成り立ちます。絶食によって免疫力が上がる、若返るなどの意見も本になって評判だと聞きます。朝食を抜く人の健康状態を調査した統計が発表されました(Circulation.2013;128:337 -343)。この研究はアメリカ人の男性を対象としていますので、結果が日本人と同じとは限りませんが、参考にはなるでしょう。 

(朝食を抜くと心臓病が増える)
統計の結果は、朝食を抜くと心臓病(冠動脈疾患)が増える傾向があるというものでした。理由は解りません。他の食事で多めに食べるためか、代謝や交感神経に負荷をかけるせいかも知れません。その他、夕食が遅い方は、そうでない方よりも心臓病が多い傾向も認められたそうです。これも明確な理由は解りません。
絶食の時間帯には脂肪を分解する代謝が起こり、血液中に分解産物が流れるため、遊離脂肪酸やケトン体などが増えると言われています。体脂肪が分解されるのは良いことでしょうが、血中の遊離脂肪酸やその他の分解産物が長時間にわたって増えるのが良いことかどうかは解りません。 
また飢餓状態は体にとってはストレスになりますので、自律神経やホルモンが作用して、あたかも興奮するに近い状態が起こりえます。それは心臓にも負荷をかけることになるでしょう。加えて、急激に血糖値を上げると血管壁に悪影響があるという動物実験データもありますので、我慢した後で一気に食べて害が出る可能性もあります。
  

(望ましい食事の回数)
朝食ではなく、昼食や夕食だけを抜いたらどうでしょうか? この論文の表現によれば、食べる回数が減っても心臓病は増えていないそうですから、昼食や夕食を抜いても大きな変化はないだろうということになります。3食食べる習慣は、理屈から導かれた根拠のある習慣ではないはずで、その必要性も今のところはっきりしません。もし食事を抜こうと思われるなら、朝ではなく昼か夕食を抜くべきと、この研究結果からは思われます。 
1日1食の健康法を勧める方もいます。飽食の害を避ける意味はあるでしょう。ただし実証された根拠のある健康法とは言えませんし、この統計によれば朝食を抜く場合は危険を伴うと思われます。 胃腸の手術を受けた方やインスリン治療中の方では、1日5〜6食に分割して食べていただくことがあります。一回の食事の量を減らすことで胃腸の負担を減らし、栄養分の急激な吸収を避け、また血糖値の変動幅を抑えて低血糖を予防しようという狙いです。こう書くと健康に良いような気もします。ただし、これは治療に従った特殊な食事法で、一般的な健康法につながるとは言えません。おそらく、今の時点では望ましい食事の回数は誰にも解らないはずだと思います。  

(朝食の意味) 
朝食と昼夕食の意義の違いも、よく解りません。教科書にはいろいろ書かれていますが、おそらく想像の域を出ない内容が多く、充分には証明されていないと思います。 
でも朝食を抜くと、経験的に日中の活動には影響がありそうです。児童学童の時期には、ぜひ朝食を摂るように勧められます。集中力や体力、成長のことを考えると食事を抜く利点は考えにくいはずです。大人は状況が違いますが、この統計を見ると、あえて朝食を抜く意義を見出しがたく思います。 
それに空腹時の自分を考えると、なぜかイライラしているので、食事を抜くと精神面への影響は確実にありそうです。絶食する人の御家族のためには朝昼夕とも食べていただいたほうが良いと思います。   
食事や生活スタイルの工夫により、血糖値や体重に改善を見る健康法は多数あります。でも、それが寿命や病気の予防につながるかどうかは別です。例えば、さかんに宣伝された炭水化物ダイエットは、血糖値や肥満に効果がありそうですが、寿命を延ばす効果までは認められていません。朝食を抜くことも、この研究の結果から考えて少なくとも寿命を延ばすことはないだろうと言えますが、肥満が著しい場合は何らかのダイエットは必要と思います。カロリーは適切に制限し、内容を調整するなどの工夫をした上で、何かは食べたほうが良いはずです。 
ダイエット法については簡単に考えず、検査やカロリー計算をしながら、統計結果を参考に個々人に合わせた対応が原則と思います。 





  診療所便り平成25年9月分より  (2013.09.30up)