診療所便りより 平成18年7月
院長 橋本泰嘉
血糖値と炭水化物
炭水化物とは、米やパンなどの主食やイモ類に含まれる栄養素です。
糖尿病の方が主食をどれくらい食べるべきか、実は難しい問題です。通常の食事指導では、かなり制限するように勧められます。「御飯は1食100グラムにしてください。」「食パンは1食に1枚までです。」などと言われます。ところが現実は、ご飯を制限するとお菓子を食べてしまう人が大半です。そして自分が食事療法を守れなかったことにがっかりして、落ち込んでしまうのが多いパターンです。
このパターンに陥る人の場合は、とりあえず御飯を増やすべきだと考えます。お菓子と御飯では栄養素が違いますし、腹いっぱい御飯を食べる人は最近は少ないのでお菓子の制限を優先すべきです。その後で血糖値などを参考に、食事療法の次の段階に進めていくべきではないでしょうか。ですから、その人の治療の段階によっては、指導内容が全く逆になることもありうると思います。
最近、自分の体験談を発表し、極端な炭水化物の制限を勧める人が現れました。おそらく制限したほうが血糖値に関してはコントロールしやすくなるでしょうが、脂肪分や蛋白質が多くなると長期的にどうなるかが問題です。また、糖尿病には様々なタイプがありますし、先ほど述べた「段階」にも違いがありますので画一的な食事療法でうまくいくとは限りません。寿命を伸ばす効果が証明されないうちは、日本の伝統的な食事に近いほうが無難だと思います。食事療法は最終的には寿命を伸ばすことを目標としていますから、血糖が良くなっても早死にしたのでは話にならないと思います。
ただし、主食の重さを測る姿勢は大事だと思います。私は患者さんのほぼ全員に主食の量を測るように勧めていますが、面倒なので無視されることがほとんどです。1回測って覚えたから、後は眼で調節していますと言われます。確かにそれで正確にやれる人もおられるとは思いますが、よほど感覚の鋭い人だけでしょう。私自身は、正確にできるか自信ありません。貧乏性なので、ごはん粒が残らないことの方に注意がいってしまいそうです。
主食の重さを測らなければ、副食に含まれる炭水化物によって血糖値が上下することに必ずなるはずです。血糖を下げる薬は低血糖がこない量でしか使えませんので、普段はかなりの高血糖状態になるという悪循環に陥ります。厳格な血糖管理のためには、測ることがぜひとも必要だと思います。
いっぽうで、これもまたよくあることですが、
「あんた(私のこと)の言うとおりにすると、いつも血糖のことばかり考えておらにゃならん。食べとる気がせん。」
という気持ちを訴えられます。これも一理あります。食事は楽しく食べたいものです。私の顔が浮かんでは、ごちそうも台無しでしょう。
食事療法には「段階」がありますから、主食も副食もカロリー計算して注射も自己管理できるような優れた患者さんにすぐなれるわけはありません。計算で頭をかかえて嫌になるならば、慣れを待っていいと思います。でも自分の「段階」を徐々に上げるように、医者や栄養士と相談を繰り返すべきです。