大気汚染と肺活量 

(カリフォルニアの大気汚染)カリフォルニアの子供達の肺活量を調べ、大気汚染との関係を論じた研究があります(NEJM2015;372:905-913)。 大気汚染が子供の肺活量に害を及ぼしていたという結論です。  
カリフォルニアの空気は、以前よりきれいになっているそうです。カリフォルニア州は盆地状の独特の地形をしており、また自動車だけが移動の頼りとされる関係で、以前はスモッグの害が酷かったため、排気ガスを規制しています。世界一厳しいという、その規制が有効に働いたのでしょうか。   

1秒率) 肺機能の検査には色々な項目があります。その中で1秒率という項目は、気道の狭窄があれば値が少なめになります。近年、子供たちの1秒率は改善傾向にあるそうです。その理由として、大気汚染の軽減を考えたわけです。
ただし、両者の関係の有無は断言できないように思います。同じ時期にタバコの害に対する意識も高まりましたので、禁煙運動の影響など、他の要因が関係しているのかもしれません。栄養や生活スタイルの変化も関係している可能性があります。  

(1秒率改善の意義) 呼吸機能の改善が意味するところも、はっきりしているとは言えません。でもスモッグが気道に侵入したら、微粒子が入るわけですから、なんらかの炎症は起こると思います。炎症は気道の粘膜を腫らし、痰などの分泌物を増やし、おそらく気道が縮まるような反応をも惹起するのではないでしょうか。それが減るのは、良いことです。  
狭くなっていた気道が拡がったことは確かとして、だから肺が丈夫になったとは言えません。1秒率が低下しても症状がなく、一過性に終わって後遺症を残さないなら気にしなくても良いでしょう。でも、もし将来の病気につながるなら困ります。今現在の大気汚染を改善すべきということになります。 
  

(大気汚染と健康被害) 大人については、大気汚染と健康被害の関係が、かなり解っています。汚染は閉塞性呼吸器疾患の原因になる上に、その症状のコントロールを難しくし、また動脈硬化関連の救急疾患を増やします。したがって、大気汚染を防ぐ必要があることは間違いありません。
子供の場合は、害があっても評価が簡単ではありません。子供時代に肺機能が低かった方たちが、大人になってどんな状況なのか調べるのは難しいかも知れませんが、それが分かれば対処の意気込みにつながるでしょう。読んだことはありませんが、四日市市などで統計がとってあるかも知れません。 
肺活量の低下が一時的なものでなく、慢性の呼吸器疾患につながる、あるいはPM2.5のように血管を傷めるような害が生じるなら、おそらく寿命にも悪影響を与えるはずです。また、分かってないから大気汚染を気にすべきでないとは言えません。子供に屋外での運動を勧めた結果、かえって汚染物質に暴露させて将来に害を及ぼすなら大問題です。  
「俺がタバコを吸ってても、子供は息苦しそうな顔はしないぜ。だから禁煙なんて意味がない。」感じ方、考え方は色々あります。確かに目で見て呼吸の症状は解らないかも知れません。でも、そんな考え方は、子供の健康に関しては禁物です。検査結果や統計を根拠に、子供の健康を守る戦略的な考え方をすべきと思います。
子供に有害と思える受動喫煙をさせないのは、親世代の第一の義務です。大気も気にすべきでしょう。ただし、具体的な対処法については、よく分かりません。屋内にいさえすればPM2.5の害を受けないとは思えませんので、PM2.5の情報に応じて考える方針は根拠に乏しいかもしれません。おそらく、汚染の発生源とは粘り強い交渉が必要でしょう。   


    診療所便り 平成27年5月分より・・・・(2015.05.31up)