食道癌の検査
食道癌は飲酒や喫煙に関係していると思われ、今まで私が経験した患者さんも、ほとんどは焼酎好きの喫煙家でした。 どのような理由でタバコとアルコールが癌の発生につながるのかは知りませんが、統計で調べる限りこれらの発癌作用は疑いないようです。
アルコールの代謝産物のアセトアルデヒドには発癌性があるそうですが、酒飲みが全員癌になるわけではないので、誘因のひとつにすぎないと思います。アルコールやタバコに含まれる物質が食道を流れるのが直接的に作用しているのか、別なメカニズムがあるのかも明確には解っていません。
健診の時のバリウム検査(胃の透視)では、食道は瞬間的にしか見ませんので、早期の病変を発見することはできません。ほとんどは見逃してしまいます。したがって検査は内視鏡しかありませんが、内視鏡でも平坦なまま横に拡がるタイプは発見しにくくて困ります。
早期の食道癌の発見率が、その施設の内視鏡のレベルを表わすと言われるほど、発見には熟練と熱意(執念?)を要します。しつこいほど探さないと、小さな病変は見えないのです。通常の人間ドックの内視鏡では、食道は1分くらいしか見ない先生がほとんどですので、小さい癌はおそらく見逃しているでしょう。
喫煙者、大量飲酒家、家族歴があるなど発癌の危険性が高い人の検査の際は、一般的にはヨード剤で染色して探します。ヨード剤を吹きかけると、検査後に胸や喉が焼ける気がすると思いますが、いっときの辛抱です。ただし、ヨード剤(うがい薬)にアレルギーがある人には使えません。
通常の観察で一見して正常だと思ったのに、染色して始めて癌と気づいたことが数回あります。小さい癌は、肉眼ではほとんど正常にしか見えません。色も正常、盛り上がりも凹みもなく完全に平坦で、ちゃんと正常に伸び縮みします。
ヨードの染まり方が周囲と異なる部分があったら、小さな器具を使って組織を少し取り、顕微鏡で検査します。組織検査、「バイオプシ」などと言う検査です。多少止血に時間がかかることもありますが、通常は数分程度で血は止まりますし、傷口が化膿して治療が必要になるようなことも非常にまれです。
最近は特殊な光を当てることでミリ単位の癌を探すことができるようになってきました。ただし、それでも視野に制限がありますから、結構見逃しはあると思います。血液で解る腫瘍マーカーも色々ありますが、感度の面で完璧といえるものは、今のところないようです。PET検査は、早期の食道癌に対しては、能力的限界があると思います。
つまり、現時点では国内最高峰の施設でも完璧に早期発見できる検査法はないわけです。もちろん、予防薬などもありません。
食道癌の困る点は、転移した場合に大きな血管や心臓、肺がすぐそばにあることです。手術で取ろうにも取れないケースが多くなりますので、予後は良くありません。発見した時には転移していることが多いので、検査も必要ですが、まず禁酒禁煙をお勧めします。せめて、タバコの本数や酒の量を減らされてはいかがでしょうか?
平成20年10月
図の土色の部分が食道です。赤い部分は動脈、緑の部分は気管支です。この他にも細かい血管やリンパ管などが食道に沿って走っていますので、すぐ転移します。