元気をつくる睡眠学
私の子供たちは、朝なかなか起きてくれません。毎朝のように怒っていますが、感心するくらいギリギリまで寝ています。自分が子供の頃は、もうちょっと素直に起きていたように思いますが、自分の場合は遊び疲れて夜の9時にはコロッと寝ていましたから、当然起きるのも少し楽だったはずです。
睡眠に生活のリズムが影響していることは皆さんすでに実感されていると思います。筋肉の動き、体温の変化と脳の働きには密接な関係がありますので、不規則な生活をして脳だけ休ませようとしても無理があります。テレビやラジオをつけながら横になる人も多いようですが、ほとんどの場合は眠りを浅くしているのではないかと思います。敷布団やベッドの硬さ、掛布団の大きさや重さ、枕の材質や高さの調節も安定した睡眠には必要です。
睡眠薬中毒の患者さんを救急外来でたくさん経験しましたので、睡眠薬はクセになる(依存性がある)から、なるべく飲まないようにと画一的に言っていました。しかし飲まないことでお酒に依存したり、うつ状態が強くなる患者さんも経験するにつれて、最近は対象を選びながらですが、こちらから勧めて処方することもあります。うつ病の患者さんは非常に多いのですが、睡眠を取ることだけで回復される方も結構おられます。
ただし依存性はどの薬にもありますので慎重さは必要です。薬剤の作用の早さと強さ、筋肉の緊張に対する作用、年齢、病状による使い分けも必要です。よく使われていたハルシオンという薬は、高齢者では筋肉などに作用して転倒させてしまうこともありますので注意が必要です。ほとんどの薬が肝臓で分解されますので、相互作用(あわせ飲み)と肝障害への注意も必要です。原則として長く睡眠薬を続けることは避けたほうがいいと思います。
どのように薬の依存状態から抜け出すかについて、専門家達の意見も結構わかれているようですが、短時間作用する薬の場合は特に中止するとすぐ不眠になるので依存しやすい傾向があります。そのため、例えば少しかじって1割〜2割減らして、眠れるかを試してみるという方法で中止に成功することもあります。また、長時間作用する薬にいったん替えて、それを減量し中止してみるという方法もありますが、替えた薬で副作用が出る可能性もある点が問題です。
当院では睡眠導入剤を中心に5種類の薬剤を使用しています。作用時間が長めで筋肉の緊張を緩和するもの、腰痛、肩こりにも使えるもの、やや強めで若い人向きのもの、弱めで高齢者にも使えるもの、軽症のうつ病に使う薬などです。処方の目的は、元気を作ることにあります。飲まないと病状が悪化する時に限って服用すべきだと思います。
寺原診療所便りより 平成17年6月