肥満と膵臓癌の関係 


肥満は癌の危険度を高めると以前から言われています。  
膵臓癌も肥満の方に多い傾向があります。本年の6月にも論文が発表され、この傾向は確認されました。(JAMA. 2009;301(24):2553-2562.)特に若い時期に肥満がある人は、発症も早い傾向があります。  


膵臓癌は肺癌や大腸癌に比べれば患者数は少ないのですが、発見が難しく、進行してから初めて診断される例が多いため、治癒率が非常に低い癌です。私も自分の診断で救命できたと言える患者さんは一人しか経験していません。来院された時点で既に転移、浸潤している方がほとんどでした。


なぜ肥満で癌が増えるのか詳しくは分かりませんが、ひとつの仮説としては肥満によって代謝に無理がかかった状態で、ホルモンが癌細胞を成長させている可能性がありそうです。もともとインスリンなどのホルモンには細胞の増殖を促す作用があります。分泌量が非常に多ければ、思わぬ作用が発現する可能性はあります。  


血液中のインスリン量には非常に個人差があります。同じ血糖値でも、けた違いに多くのインスリンが分泌されている人がいます。さすがに桁違いの量があれば、普通と異なる影響があってもおかしくはありません。一般に肥満状態では血液中のインスリン濃度は高めになります。そうでないと代謝を維持できないからです。すると、多量のインスリンの悪影響によって癌細胞が増殖し、人の免疫を耐え抜いて生き残る可能性があります。これが肥満で癌が増える仕組みかもしれません。   


いっぽうで、やせすぎると感染症に対する免疫力を落とします。肺炎などから回復できるかどうかは、その方の栄養状態が大きく関係します。重症の感染症でもパクパク食事をされている人は、不思議と状態が悪化しません。だから、やせればやせるほど良いとも言えないもの確かですが、飲酒や過食を続けて代謝に負荷がかかる状態を続ければ、癌細胞を増やす可能性があることを頭に入れておくべきです。


わざわざ癌を育ててあげるのは賢いこととは思えません。  






平成21年 9月30日 診療所便りより