膵臓は胃の裏側にある臓器です。このため膵臓に炎症が起こると、胃か背中に痛みを感じることが多くなります。胃の痛みと膵臓の痛みの違いは、あるにはあるのですが区別できないことも多いので、胃薬をもらったり胃カメラを受けたりされている人の中に膵炎の患者さんが結構おられます。
膵炎の症状は主に腹痛ですが、程度に個人差がありますので、特に慢性膵炎の人の中には痛みを軽くしか感じない人もおられます。
膵炎を起こす原因としては男性では暴飲暴食が多いのですが、例えば飲酒の後すぐに痛みが出るかというと、そうとは限りません。半日や1日過ぎてから腹痛が強くなることもありますので、なかなか膵炎だとは気づきません。
お腹のCTで強い石灰化(膵臓の中に石ができること)があって確実な膵炎と言える人に「今まで何度もお腹が痛かったでしょう?」と聞いても、多くの場合「いいや、自分は一度も腹痛なんてなかったのが自慢だ。」と、言われます。軽い痛みは忘れてしまいますし、胃がもたれるくらいにしか自覚していないのでしょう。
そのような理由で、本人も暴飲暴食の害を理解しにくいし、また診断や治療が遅れてしまうこともよくあるようです。疑わしい人はエコー(超音波)や血液、尿の検査を繰り返しされたほうがいいと思います。
糖尿病の患者さんの中には、一般に考えられているよりも多くの膵炎の患者さんがおられますが、ほとんどの方には自覚症状がありません。膵臓は血糖を下げるインスリンというホルモンを出す臓器ですので、この機能が落ちると糖尿病になります。また消化液を出す働きもありますので、この機能が落ちると消化不良、ひどい場合は慢性の下痢や栄養不足状態に陥ります。でも、よほどでないと皆さん病院には行かないようです。
中性脂肪が高い方は、痛みがはっきりしない膵炎を起こす傾向がありますので注意が要ります。健康診断で中性脂肪が高い人は非常に多いのですが、何らかの代謝不全でカロリーを消費できていない状態だと考えるべきですので、辛いかもしれませんが原則として禁酒しておいたほうが無難です。
おたふく風邪の後にも膵炎を起こすことがあります。子供さんが三輪車などで遊んでいてハンドルで腹部を強打して膵炎を起こすこともあります。そのほか原因不明のショックの中に膵炎が混ざっていることがあり、そのような時は「もしかして膵炎じゃないか?」と疑って始めて診断できます。宴会の翌日に死んでいるのを発見されたというのを聞きますが、これもかなり膵炎がからんでいると思います。
予防法は、原因や誘因になるものを極力ひかえるということになります。アルコール、コーヒー、タバコ、ストレス、炭酸飲料、脂肪の多い食事、カロリーが極端に高いものなどは、すべて誘因になりますので、ひかえることをお勧めします。とは言っても、どれも断ちがたいものではありますが。
重症の膵炎の場合に、軽症に見えて急にショック状態になって亡くなるケースがあります。診断の難しさに加えて急激に病状が悪化する可能性があることが、この病気の本当に怖い点です。ご用心下さい。
寺原診療所便りより 平成17年7月