震災とインスリン治療 

3年前の東日本大震災は多くの被災者を生みました。糖尿病患者さんの状況については、学会で繰り返し発表されています。
インスリン治療を必要とする1型糖尿病患者さんの治療について、最近の統計があります{糖尿病57(1):16-21, 2014}。   

血糖値の平均を表すHbA1cの値は、1〜2ヵ月後に上昇し、半年後に元に戻っていたようです。あれだけの災害のわりに正常化が早く、意外な感じもします。この統計の対象者には自宅療養者が多数含まれていたので、インスリンや器材のストックがあって、治療を継続できたせいかも知れません。
対象を避難所生活の方に限定すると、もっと重大で継続的な変化があったのかも知れません。  

調査対象は平均で16才でしたから、本人はもちろん保護者が気をつけて、注射器具や食事の管理ができた影響もあるかも知れません。阪神淡路震災の経験もあったので、持病持ちの人への援助が必要なことは周知されていましたから、病院側も積極的に関与できた面があったと思います。
自宅が倒壊したり、避難所生活を強いられたりしなければ、なんとか普段に近い治療は続けられると考えて良さそうです。急場をいかに乗り越えるか、そこが問題となります。 

1割の方はインスリンが不足したと答えておられました。食事内容が偏ったり運動不足になったと答えた方も半数に上っています。当然の結果でしょう。 精神面への影響も、想像を絶するものがあるはずです。特に肉親や友人に不幸があったりすると、強いストレスで体調の維持が難しくなります。自助努力、支援によって、やがては切り抜けられるとは思いますが、その影響は楽観できません。 

災害を切り抜けるため、普段から自分が被災した場合を考えておく必要があります。薬に関しては、半月分くらいは備えておくべきです。
当院に通院中の患者さんは、薬が切れてから来られる方が多いのですが、それでは緊急事態への対応が難しいでしょう。災害で病院も薬屋も機能しなくなった場合、薬の入手ができません。備えあれば
憂いはあるでしょうが、急場をしのぐ準備をしましょう。 




   診療所便り 平成26年3月分より・・・(2014.03.31up)