心房細動
心房細動は日常よく見かける不整脈です。それだけで倒れることは稀ですが、血流が停滞して血の塊を作りやすい傾向があります。報道によればですが、野球の長嶋監督が倒れたのも、この不整脈のせいだと言われています。血の塊が脳の血管を詰めてしまったらしいのです。どのような脈になるかというと、リズムがバラバラで一定しない早さの脈です。言葉で言うなら、正常が「トク、トク、トク」なら、「トク、ドクン、トト」といった感じでしょうか。
原因はよく判りません。実は私も心房細動を発症したことがありますが、何かのウイルス感染の後の筋炎に付随して起こりました。炎症や変性が関係しているのかも知れません。脈は不規則になりますが、自覚症状はないことが多いようです。でも稀に胸が痛い、苦しい、非常に息苦しいと訴える患者さんもおられます。 診断は心電図で簡単にできます。
治療法の第一は、血をサラサラにすることです。これによって脳卒中の発生率が減り、死亡率も下がりますが、逆にどこからか出血する危険もありますので、薬の量をこまめに調節しなければなりません。若い方なら、値段が高い薬ですが調節を必要としないと思われるプラザキサという薬も可能です。
多くの場合、ワルファリン、ワーファリンと言われる薬を使いますが、この薬を飲む場合だけは納豆やクロレラの制限が必要になります。納豆やクロレラにはビタミンKを産生するためワーファリンの効果を阻害する関係です。この薬以外の血液をサラサラにする薬は、納豆の制限が必要ありません。
他の食品にもビタミンKは含まれています。野菜もそうです。毎日ブロッコリを大量に食べる人は制限したほうがいいかも知れませんが、一般に野菜まで制限すると別な健康問題が発生するので、制限するのは納豆とクロレラだけと考えていいと思います。 ビタミンCを多量に飲まれる方は、ワーファリンの効果が高く出たり低く出たりするようです。出血を起こして命に関わる場合もありますから、主治医に内服中の薬は全て報告しないといけません。
血液をサラサラにしたうえで、脈を遅くするか規則正しくする治療をします。近年の統計では、脈拍が110以下の場合は塞栓症をそれほど心配しなくて良いとも報告されていますので、もしかしたら脈拍のコントロールが先で、血をサラサラにするのは後で良いのかも知れません。また、条件が整えば心臓の一部を電気で焼いて脈を正常化し、再発を防ぐこともできます。
脈が遅くなれば、血液の塊ができにくい傾向があります。塊ができなければ塞栓症がなくなりますので、命に関わる問題は少なくなります。以前は脈の正常化にこだわる傾向がありましたが、脈を遅くするだけでも大きな問題はないことが多く、安易に脈を正常化すると、かえって別の不整脈が発生する、塞栓症を起こす等の問題もありますので、脈を遅くするだけで観察するほうが安全かも知れないと考えられるようになってきました。
いろんな統計が出されましたが、脈を遅くする場合と正常化する場合とで際立った差は出ていないようです。でも、弁膜症やもともとの心機能に問題があるため長時間不整脈が続くと心不全を起こす人は、条件がそろえば脈の正常化も考える必要はあります。脈を遅くすることが難しい人、もともと塞栓を起こしやすい状態の人なども、脈を正常に戻すことを考えたほうが良いかも知れません。
診療所便り 平成20年9月
リズムは気にしない