セレン    

セレンは人体にも微量に存在する元素で、抗酸化作用を有します。これを含む薬を使うと、バセドウ病(甲状腺機能亢進症のひとつ)で眼球が出る症状を抑えられるという発表がありました(N Engl J Med 2011;364:1920-1931)。 

バセドウ病で眼球が出る理由は詳しく解っていませんが、おそらくバセドウ病で発生する血液中の抗体が、目の後ろの筋肉や脂肪組織に反応するのだろうと言われています。抗体が反応すると、なぜかそこが肥大化し、目が飛び出たようになって、独特の顔貌になります。甲状腺と目の後ろの組織以外には目立って肥大が見られないようですが、一見関係なさそうな甲状腺と眼の後ろという場所に特異的にレセプターが存在し、反応する理由が私にはよく解りません。 

眼球の突出が強い場合はステロイドホルモン剤や放射線によって治療しますが、治療をしてもコントロールできなくて害ばかり出ることもあり、困ります。
今回の発表は重症の人にも効くとは書いてないようですが、画期的な方法と思います。ただし、なぜ効くのかも私には解りません。もし抗酸化作用によるものなら、腎炎の治療に使われる他の抗酸化剤も効果を期待できるかもしれません。良い方法が解れば、眼の病状のコントロールが進む可能性もあります。

セレン不足は中国の一地域で風土病を生む原因になっていることや、乳児の死亡率に関係していることが知られていました。食事や母乳が充分に得られない場合には不足する可能性もありますが、ほとんどの日本人は充分摂取していると思います。健康な方が、わざわざセレンを取り寄せて飲む必要はないはずです。



診療所便り平成23年9月分より(2011.09.30up)