睡眠剤、安定剤の処方

(処方制限)今年度から、精神安定剤や睡眠剤の処方に制限が加わりました。同じ系統の向精神薬を3種類以上使う場合は理由書の添付が求められ、それがないと罰則の査定がされる予定です(猶予期間はあります)。   
その根拠となったのは、他の国と違って日本で多剤を併用した独特な処方が目立つという調査結果だそうです。 

(制限の根拠)確かに精神科の薬は量も種類も多く、驚かされることが多いのですが、きめ細やかな配慮に基づく処方もあると思われ、一概に薬の出しすぎと断定できないように思います。 
さらに、その調査が正しい方法で検討されたのかも問題です。医療保険制度が異なる国々では、病院や薬局の都合で薬を制限している可能性があります。つまり医者は複数の薬を出したいけれど、医療保険の会社が収益を優先して病院の収入を減らすので、やむを得ず薬を制限するかも知れないのです。
日本のように良心的な医療が成立するのは稀ですので、単純な比較では意義が分かりません。保険制度による違いを調査からどう排除するか、その点に恣意的なものがあれば政府の意見は信用できません。  
そうだとすると、今回の改訂はとんでもない改悪なのかも知れません。もし今後、薬を減らしたことで精神科の治療成績が悪化した場合、誰が責任をとるのかも気になります。 

(薬を減らすこと)いっぽうで安定剤は寿命に関係します。投薬が多いことで寿命を短くする可能性も否定できません(BMJ2014;348:g1996)ので、状態が悪い時期を乗り越えたら、基本的には減らしていくべきではないかと個人的には思います。
ただし、この考え方に実際に証明された根拠はありません。薬を減らすのは非常に難しいことで、減らそうかと言われるだけで患者さんは見放されたように感じ、それを乗り越えるには大変な困難を要します。「こんなに希望しているのに処方しないのは人道に反する。」と感じる患者さんは多いと思います。生命予後などの最終的な結果も良くないかも知れません。患者さんの心理を考えると、薬の数を今後増やさないといった表現の規定が正解で、今の処方を減らせという規則は現場を考えない指示と言えるように思います。 
当院の処方に関しては、元々最小限しか処方しておりませんので、皆様に大きな影響はないと思います。 

(精神科病床削減)それと別に、政府の方針では精神科病棟を減らすことも計画されているそうです。精神科の患者さんは入院が長くなる傾向があり、治療費が健康保険財政を圧迫するので、退院を促して費用を節約する方針のように思います。
でも精神科病棟で見る患者さん達は、はたして退院されて怪我されないか、ちゃんと食事や身の回りのことを管理できるのか、疑問に思える方がほとんどでもあります。強制的に家に帰すのは無茶としか思えません。
いっぽうで、新規の向精神薬の中には想像以上の効果が得られるものもあり、以前なら管理不能だった患者さんも、徐々に一般の方に近い形で暮らせるようになりつつあります。もしかすると、今後は本当に入院患者が減る時代が来るかも知れません。 
今後政府の意図通りに進めば、患者さんが介護施設など、ある程度の管理が効く施設に移動できるでしょう。介護保険の領域に患者さんを誘導すると、費用面の節約が出来るかもしれません。認知症の方が増えるため、一過性に患者数が増減するでしょうが、やがて国の人口も減る予測があること
もあって、精神科病床は相当減るかもしれません。
医療費を減らすことができれば、それは良いことでしょうが、精神科病院にとっては収益が減ること、また患者さんにとっては入院が制限されることになり、現場の負担は増すかも知れません。良いことばかりとは言えないように思います。 



      診療所便り 平成26年8月分より・・・(2014.08.31up)