サルモネラ菌と卵、ヒヨコ  

ヒヨコの通信販売によるサルモネラ菌感染が論文になっています(N Engl J Med2012; 366:2065-2073)。これはアメリカで2011年に明らかになった事件の報告です。 

衛生面に関する感覚や風習には個人差や地域による違いもあり、信じられないようなことも平気でやる人はいます。 まず私の感覚では、生き物を通信販売したことに驚きますが、道義的に問題のない安全な方法と、あちらでは思われたのでしょうか。 購入した方達も、可愛らしいヒヨコに、まさか怖い菌がいるとは想像もできなかったのでしょうが、見た目と衛生的な状況は違います。起こるべくして起こった事件でした。

サルモネラ菌は食中毒の原因として有名ですが、自然な状態の肉や卵、ペット類には常在してもおかしくないので、一生全く接触しないのは無理です。卵や肉の表面だけでなく、卵の内部に菌がいても外見上は判別できないそうです。 生卵にはもともと何らかの臭いがありますので、腐臭が漂うほど腐らないかぎり、そこに菌がいるかどうかは解りません。 刺身や生肉にも、何の病原体もいないと考えるのは無理です。 菌はいるけれど、ほとんどの人が食べても大丈夫な状態で販売されているだけに過ぎません。   

以前は私も卵ご飯が大好きでしたし、スキ焼のタレに生卵を混ぜていましたが、考えてみると怖ろしいことでした。 流通している卵は、ほとんどが定められた方法によって殺菌されていますので、菌の数は多くないと思いますが、完全な滅菌はできないはずです。  

サルモネラ菌によって食中毒になっても、元気な人なら軽い下痢で治まります。でも、なかには亡くなる方もいます。体力や免疫の状態、体質によっては意外なほど急激にショック状態に陥りますので、元気だからヒヨコを触っても大丈夫とは言えません。 

多くの場合は触った後が大事です。 動物一般、動物が触れたもの、糞や尿が触れたものと接触すると感染の危険性があることを認識し、直ぐ手洗いをして病原体を減らすようにすべきです。 卵の外側を洗えば良いと考えるのも間違いで、一定の確率で内部にも菌がいることも覚えておいて下さい。   




診療所便り 平成24年8月分より(2012.08.31up)