ピロリ菌
胃の中にピロリ菌がいることを御存じでしょうか。正直なところ、私が医学生の頃は想像すらしておりませんでした。ピロリ菌は胃潰瘍の原因になること、リンパ腫や癌や血小板の病気の原因らしいことも解ってきました。
胃潰瘍の時にはこの菌を退治することが認められています。入院する必要はありませんが、抗生物質を通常の2倍量使いますので、副作用がありえます。幸い今まで私が処方した中で副作用が出た人はいませんが、除菌の成功率は6〜7割くらいで、せっかく抗生物質を飲んでもらっても、菌が生き残ることがあります。除菌できれば胃潰瘍の再発は非常に減りますが、菌が残れば悪化を繰り返すことが多くなります。
除菌すれば、胃癌もかなり予防できそうだと言われています。では国民全部が今すぐ除菌すれば胃癌はなくなるかというと、そうではないようです。ただ、減ることは間違いないだろうと思います。
胃潰瘍や胃癌で治療を受けた人は除菌することが標準になっていますが、胃炎が進行してしまった後でも除菌すべきかどうかは分りません。炎症が軽いうちに除菌できれば癌を発生させにくいはずですが、炎症が進行すると除菌の効果も出にくいのではという意見があります。研究が進んではっきりするまでは、患者さんと相談して決めていこうと考えています。
除菌の際の処方例
タケプロン(30ミリ)1カプセルを1日2回、サワシリン(250ミリ)3錠を1日2回、クラリスロマイシン製剤(200ミリ)1〜2錠を1日2回 これを1週間続けてもらいます。全部をシートにそろえて解り易くしたランサップという製品もありますが、内容は同じです。これ以外にも薬はあるのですが、T製薬の戦略で役人を巻き込んだ制限が設けられているため、保険が使える処方は上記がほとんどです。いずれの薬も通常は半分くらいの量しか使いませんので、かなり強力な治療と言えます。これくらい使わないと菌が生き残るのでしょう。
ピロリ菌の検査
息を出してもらって、呼気中の尿素の量を測る検査が最も簡単です。便中のピロリ菌抗原を検査することもできます。カメラをして組織を取って、菌が発生する酵素を利用して発色させると判定できますし、顕微鏡で直接菌を観察することもできます。胃潰瘍に関連して検査するときは健康保険が使えますが、ピロリ菌の検査だけを希望して病院に頼んでも保険が使えません。胃カメラを受けることが義務づけられているようです。
ピロリ菌が発癌性を持つ理由は?
通常、発癌性はウイルスが遺伝子を混入してくる、細胞の中の遺伝子に化学的な変化が起こるような物質、エネルギーが働くことが原因であると私は考えています。ところが、このピロリ菌についてはウイルスではないので、遺伝子を細胞中に押し込めるような方法は、ちょっと考えられません。
ピロリ菌が発生するアンモニアは、遺伝子にとっては強い化学物質なのかも知れませんが、細胞の核の中にまで入って、遺伝子に影響するような怖ろしい物質なのかは知りません。
私達が知らないメカニズムがあるに違いありません。ピロリ菌の存在下で悪影響を与えるウイルス、ピロリ菌に寄生するウイルスがいるなどが最も考えやすいストーリーですが、本当のところは誰も解りません。
診療所便りより 平成18年9月 院長 橋本泰嘉