プラザキサの処方管理
プラザキサ(一般名ダビガトランエテキシラート)は血の凝固を抑える薬で、通常は心房細動という不整脈をお持ちの方に脳塞栓予防の目的で処方します。血をサラサラにすることで、血の塊ができにくくなる理屈です。
血液の凝固を抑える旧来の薬はワーファリン(ワルファリン)ですが、プラザキサはワーファリンと違って吸収や代謝が安定しているため、量の調節がほとんど要らないのが特徴でした。効果も劣らないと言われています。ところが、実は血液中の薬物濃度を検査すると適正量を決めることができるのに、製薬会社が意図的に隠したのではないかという疑惑が生じています(BMJ2014;349:g4670)。
従来の薬ワーファリンは、食べ物や他の薬によって効果が変るので、毎月のように採血して量を調節する必要があるのが難点です。採血が要らない薬なら非常に売れるはずですから、売り上げのために事実を隠した可能性はあります。 実際にその意図があったかは不明ですが、血液に作用する薬は危険度が高いので、事故を減らすために情報を開示し、管理方法を確立すべきで、会社もそれに協力すべきと思います。
現時点でプラザキサの量の調節は、腎機能が低下した患者さんには含有量を減らして(150ミリから110ミリへ)使うなどの調整が推奨されていますが、腎機能の評価は筋肉の量に影響されて不正確になりやすく、減らした場合にも薬の効果を充分期待できるのか明確には言えませんので、簡単な調節だけでは不安を伴います。もし血中濃度が測れれば、薬の調節に根拠が出ますから、出血などの副作用を回避しつつ効果にも期待できる、より進んだ管理も可能なはずです。それを製薬会社の経営戦略で実施不能にされたら、倫理的に許されない問題です。社会的責任を考えると是正は必要でしょう。
血をサラサラにする薬の副作用で最も怖いのは出血です。皮下出血くらいで済めば良いですが、消化管からの出血や脳出血は命に関わります。薬の副作用で患者さんが亡くなられた場合は、基本的には殺人に相当すると思います。そのような薬を処方できるのは、処方で塞栓を予防できる人のほうが、処方しないで脳塞栓になる人より少なく、処方したほうが助かる人が多い、したがって処方が許容されるという判断があるからで、副作用が多くないこと、副作用を少なくする努力がなされることが前提です。 効き過ぎがないように最大限の注意を払うことが求められます。会社の宣伝戦略のせいで適当にして良いことではありません。
また、プラザキサの薬代は1日分で478-546円(会計負担は、その1−3割)します。優れた薬とは言え、私の感覚では法外な値段です。ワーファリンは、これに対して1日数十円で済みますから、負担額や医療費のことを考えると原則はワーファリンを選ぶべきではないかと思います。逆に血管の状態が悪くて採血が困難な方、納豆などの制限が出来ない方、併用薬が多い方など、事情があればプラザキサと考えるべきです。
現時点で、この薬に関する処方管理が厳しくなるような動きは出ていないようです。血中濃度を測る必要性がどの程度か判らないからでしょう。出血の問題が顕著になれば、法令や通達によって血中濃度の確認が義務付けられるかもしれませんし、目立たなければ今の適当な調整が許容されるかもしれません。
製薬会社の道義的問題が仮にあったとしても、実害の大きさが重視されると思います。将来プラザキサのジェネリック品が出れば事故も増えることが予想されますので、その時期までには血中濃度の測定が容易になって欲しいとは思います。
診療所便り 平成26年10月分より (2014.10.31up)