
平成24年4月から院外処方箋の仕組みが変わり、処方する際は、薬の成分名を記載することが主流になりました。そうすることで薬局がブランド品でない医薬品を出すことを誘導し、薬剤費を減らしたいという政府(役人?)の方針のためと思います。
当院は院内で処方しますので大きな影響はありませんが、薬局で処方される薬の品質に関しては不安が残る仕組みです。薬の成分名は学術用語ですから覚えにくく、確認することも難しくなるでしょう。医療安全の観点から考えると、間違いを誘発しそうな危険な規則と言えます。
患者としては、薬の名前の確認(覚えにくいですが)をすること、気分や皮膚の変化に注意することが、今まで以上に必要になると思います。
大腸ポリープ切除の意味
(害と効果) 大腸ポリープを持つ人はたくさんいます。ひとつもポリープがない人のほうが少ないくらいです。 ポリープが見つかった場合にどうすべきか、取ることで寿命が延びるかに関して、明確な回答はありませんでした。ポリープを取るためには、以下のような問題を検討し、害より効果が大きいと言えることが最低限必要です。
@内視鏡検査の前処置、麻酔の最中の事故の危険性。
A内視鏡検査で腸管の壁を穿孔する危険性。
Bポリペクトミー(ポリープを取る手技)で腸を傷つける危険性。
C内視鏡検査で病気に感染する危険性。
Dポリープを取って癌は減るか増えるか。
Eポリープを取って別な病気が減るか増えるか。
Fポリープを取るよりも有効な他の手段はないのか。
おそらく取ったほうがいいと思うけど・・・といった推定だけで話を進めていると、実は有害だと後で判っても謝りようがありません。
(切除の効果)
最近、ポリープの一種である“腺腫”を取ると大腸癌による死亡率を減らすと報告されました(N Engl J Med2012;366:687-696)。この結果は以前から予想されていた通りでした。腺腫は癌ではありませんが、癌に変わる可能性が正常の粘膜より高い傾向があります。取っておけば、癌の発生率も減るだろうと予想されます。
この試験では2600人の方のポリープを取ったところ、その後16年間で12人の方が大腸癌で亡くなったそうですが、これは放置する場合より低いと思われます。でも2600人のうち12人と言うと、かなり多い印象も受けます。ポリープを取れば大腸癌にならないと勘違いしてはいけないようです。
(曖昧な点)
ポリープへの対応に関しては、今の時点でも曖昧な点があります。
@違う国、人種や食生活の違う人達の結果は、参考程度の意義しかありません。肉食や乳製品の量などは大腸癌の発生に関与すると思われますので、日本人では発表された報告と違う結果が出るかも知れません。
Aポリープの有無によって自覚症状が変わることは稀ですので、どんな方がいつ検査を受けるべきかの条件が曖昧です。 また、
B線種以外のポリープの切除が寿命を延ばすかも判りません。
Cポリープの形をとらないで発生する癌もありますので、その場合は当然ポリープの切除は経過に影響しないでしょう。
Dそもそもカメラの検査を受けることで寿命が延びるか、
E検査による危険性とのバランス、
F検査の適切な間隔も曖昧です。
今の大腸癌検診(検便)の意義も確定したものとは言えません。 曖昧な点に関しては確認することが望ましいと思います。
(費用の問題)
いかに有効な治療であっても、検診から治療までに要するお金が膨大になれば問題です。大腸検査やポリープ切除は安いものではありません。 費用が発生しますから、内視鏡検査を施行する場合に、医師の裁量だけで決めて何の問題もないとは思えません。 まず根拠があるかどうか、健康保険を利用して良いのかを再確認する必要はあります。
いっぽうで検査や医療行為を制限し過ぎると、助かる命を金銭的理由で捨てることになります。その制限を役人だけで決めて良いはずはありませんが、実質そうなっている印象も受けます。
(倫理的な面)
言い方は良くないですが、日本の医療現場や医療行政は、必ずしも倫理や哲学的な検討を経ずに発展してきた面があります。個々の先生は患者さんの利益を第一に考えておられるはずですが、健診や医療制度全体としてはそう言いきれません。 検査や治療行為には、必ず倫理面の確認が望まれます。
例えば大腸癌を予防するためなら検査で一人くらい死んでも構わないか、1万人に一人ならどうか、百万人に一人ならどうか、カメラで何かに感染しても稀なことだから仕方ないと考えるかどうか、検査がいかに有益でも害をもたらすなど全く許されないと考えるかどうか等々、結論を出すのは難しい問題ですが、難しいから考えないというわけにはいきません。
また、癌への恐怖心をあおる宣伝手段で対象患者を集めた場合に同義的問題はないのか、そのような中で何かの害が発生した場合は医療事故なのか犯罪なのか、宣伝と考えるか啓蒙と評価すべきかなど、考えるときりがありません。 技術の進歩によって直ぐに判定できない問題が生じるのは仕方のないことですので、常に効果と害、費用と効率、倫理上の問題などの根拠を確認しながら判定を繰り返すしかないでしょう。
(結論)
今の時点で腺腫らしきポリープが見つかったら、もし事故の危険度を無視して良い場合は単純に考えて切除すべきだろうと私は思います。
平成24年5月診療所便りより (2012.05.31up)
