

PM2.5と死亡率
(PM2.5は死亡率に関係)
中国におけるPM2.5の害、特に死への影響を検討した統計が発表されました(BMJ2013;347:f7 139)。死亡率の統計から単純計算した場合、大気汚染が激しいと死亡率は5倍くらい上がると書かれています。
ただし、5倍という数字に大きな意味はないはずです。本当の害を判定するためには、汚染が激しい地区と空気のきれいな地区とで調査する必要がありますが、大気は広範囲に影響し、汚染物質の濃度も変動します。そのため単純比較は難しく、本当に5倍も死ぬという評価はできないと思います。PM2.5といった粒子の径以外にもS02やNO2といった物質の種類も死亡率に関わっていそうです。
(長期的影響は不明)
この論文は、長期的な影響を検討していません。高濃度の汚染物質に暴露された後、数年後~十数年後に動脈硬化が進むか、肺病や癌が増えるかどうか、それらが最も重要な点ですが、この統計では短期間の影響を死亡者数から計算しているだけです。真の影響については解りません。短期間に影響が出る理由はよく知りませんが、呼吸器疾患が増えるせいでしょうか?
長期的な影響を総て網羅した研究はないと思いますが、ヨーロッパ5カ国で心臓病(冠動脈疾患)が増えるか調べた統計はあります(BMJ2014;348:f7412)。PM2.5の濃度が5μg/㎥高いと、発生率は10数%高いという結果が出ています。 ちなみに、熊本県から注意報が出るのは70μg/㎥以上だそうで、上記の報告から考えると、注意報が出ていないから安心とは言えないように思います。
(日本への影響)
気になるのは、日本への影響です。 最近は黄砂の時期に関係なく、西よりの風の日に遠景がぼやけることが増えた気がします。あれが中国由来だとすると、既に西日本の広範囲に影響が生じているのかも知れません。
歴史的に見ると、産業革命時代のイギリスの都市は酷い大気汚染に曝されていたはずで、呼吸器疾患を中心に病気は多かったと書かれています。でも当時はPM2.5~10といった粒子の区分もなく、計測も統計も方法が違うので、今日どれくらいの濃度でどの程度の害が発生するのか解りません。それに、おそらく当時と今の中国とでは排気ガスの成分も違うはずで、害も同じではないはずです。
大気汚染が激しかった頃の日本は、硫黄や窒素酸化物や光化学スモッグは注目されましたが、汚染物質の粒子の径に注目が集まっていたわけではなかったように思います。ヨーロッパはディーゼル車が多い関係で、研究も車の排気ガスをイメージしています。日本でも交通量の多さによって、地域ごとに害の度合いが違うのかも知れません。
子供の頃は練炭などの燃焼ガスを平気で吸い込んでいました。ゴミ焼却の際にも、煙を大量に吸い込んでいましたが、害のことなど頭にありませんでした。せいぜい一酸化炭素中毒に注意するくらいでした。専門家達も似たようなものだったかも知れません。新しい統計をとらないと評価も難しいように思います。
(対処法の目処)
問題は対処法です。粒子を減らせば、なんらかの良い効果が期待できます。ニュージーランドでは、住民全体で薪ストーブを廃棄して心筋梗塞を減らす徹底的な対策が採られた地域があるそうです。でも中国では難しいでしょう。 経済規模、暖房の習慣、国同士の仲が悪く話し合いが難しいことや、大気から逃げようがないこと、害の証明が難しく、しかも本当の害は後で出ると思えることなど、困ることばかりです。 さらに、石炭を使う暖房から他の暖房に代える、もしくは排気を浄化する器具を取り付ける場合は、それなりの金がかかります。誰がそれを負担するのでしょうか? 害が解った頃には、すっかり病気が完成しているかもしれません。 あわてても仕方ないように思いますし、すぐ死ぬとも思えません。総ての心配が杞憂に終わることを祈ります。
平成26年2月診療所便りより(2014.02.28up)