アメリカのおたふく風邪ワクチン
アメリカは日本よりワクチン対策が徹底していて、おたふく風邪ワクチンの接種率は9割近いそうです。でも、そのアメリカで2006年におたふく風邪の流行があったと報告されました。
(ワクチンの限界)
一般に、ワクチンを接種しても免疫ができるとは限りません。また、ある程度免疫があっても、ウイルスを攻撃する力が弱ければ、感染してしまうことがあります。 さらに、できた免疫も年が経てば力が落ちていきます。感染者と接触すれば力を維持できますが、接触しないとワクチン効果は低下していきます。したがって、感染者が減るために免疫を維持できない人も増えるという逆転現象も起こりえます。 この辺が難しいところです。一回接種すれば感染が完全に予防できるなら接種する人も増えるでしょうが、忙しい時間をぬって接種場所に連れて行き、それで結局感染した場合にはバカらしいという思いが浮かぶでしょう。
(社会的要因)
経済的な面も大事です。大流行していれば別ですが、めったにない感染に対して膨大な予算を費やし、それだけの意味があるのか曖昧な場合には、行政も熱心に接種を呼びかけたくないでしょう。そして接種を勧めた人に、たまたま副作用が出た場合には、「充分な説明義務を果たしたのか?」と、厳しい評価が待っていますので、及び腰にならざるを得ません。 ワクチンの副作用を軽視してはいけませんが、必要以上に神経過敏な人も多いので、なかなか接種率を上げることはできません。さらに市町村の予算と医師会の利権がからんでいる関係で、どこでも自由に受けることはできません。
(予防に対する意欲)
様々な理由で日本のワクチン体制はアメリカに及びません。麻疹が典型例ですが、北米で流行した時の感染源が日本人だったという話は有名です。発生率が高いと予防する意味も理解できますが、今日のようにめったに麻疹患者に会わないような状況では、予防接種の意義を理解しろというのにも無理があります。 おたふく風邪は麻疹より断然感染者が多いのですが、イメージ的に深刻さの度合いが低いので、予防しようという意欲が低いのかも知れません。 でも、激しい人は合併症の膵炎を起こして死にそうになる場合があります。実際に私が経験した患者さんは血圧が下がって、もうだめかと思いました。
(接種の体制)
接種率が低いことや、ワクチン製剤の違いなども考えられますが、先程述べたような理由により、法律に定められた通り接種しても、おそらく感染を充分にコントロールできないでしょう。 ワクチンは感染症をコントロールできる強力な手段ですので、接種に関しては自分だけ、家族だけはという狭い了見ではなく、地域住民や国民〜人類すべての利益を視野に入れた戦略的な考え方をすべきだと思いますが、各団体の利益や思惑が邪魔をして、充分に機能していないことが残念です。
麻疹ワクチンのやり方に、近年修正があったことをご存じでしょうか?今の20歳くらいの人は抗体を持たない人が多いので、大学構内で麻疹が流行するという事態が発生しました。我々から見れば至極当然の成り行きで、ワクチン体制の欠陥を示したに過ぎない事件ですが、問題が明らかになって初めて追加の接種が始まりました。こんなことでは、新しい流行を防ぐことなど夢でしかないでしょう。
本当は各病原体についての接種率や抗体価を見ながら、10〜20年毎に全住民を対象に接種するのが正しいやり方かも知れませんが、データ不足で解りません。定期予防接種も万全ではなく、残念ながら制度に不備がある部分は自費でやらざるをえません。そのため当院は微々たる力に過ぎませんが、せめて価格を安めに設定しています。
平成20年11月 診療所便りより
ワクチンしとけば・・・