乳がん検診の効果     

癌の早期発見のためには、検診を受けるべきです。ただし、検診に本当に効果があるのか、間違いや無駄がないのかは気になります。アメリカの乳癌検診に関して発表がありました(N Engl J Med2012;367:1998-2005)。    

検診を受けることで早期がんの発見数は倍にまで増えるそうです。したがって検診に効果はあると言えますが、例えば米国の場合、30年間で130万人という膨大な数の方が無駄な診断を受けていたかもしれないという結果でした。つまり癌が命に影響しない方にも診断していたようです。    

早期発見を増やす効果と、無駄に診断して費用と心配を増やすだけの結果と、そのどちらに重点を置くかは微妙な問題です。何をもって有益とするか無駄とするかも難しいことです。癌による死亡を減らすことに意味がないと考える人はいないでしょうが、無駄があまりに多いと方法を考え直す必要性を感じます。でも実際のところ、どれくらい無駄な行為をしているか外部の人間には解りません。事実上評価を禁じられているのが現状です。 

もし仮に癌検診をいっさい止めてしまうと、進行して手遅れになった状態で初めて診断される方が増えると考えられます。無駄な診断について気にするより、早期診断をどれだけ増やすかを重視すべきというのが昔からの考え方です。無駄を指摘すると、早期発見を邪魔するとして責任を追及されかねません。それも間違いとは言えないでしょう。 

ただ昨今の状況、主に経済的な状況を考えると、癌を減らすために財政を逼迫させても構わないというような考え方は許されるものではありません。生命予後を改善させない行為を、やむをえない副作用として放置しようというのは傲慢な考え方です。もし癌検診を市の事業でやるなら、無駄な行為が明らかになれば市民として許すべきではないはずです。 

健診や検診は税制上は職場の福利厚生費として扱われますが、病気に関係する意味では社会保障費と大差なく、便宜上区分されたに過ぎないと思います。社会保障費の財源が問題なことは繰り返し指摘されていることですから、福利厚生費にも無駄使いのチェックは望まれます。検査機関は、意図せずとも脱税を補助している可能性さえあります。 

癌検診を止めろと述べているのではありません。もし旧来からの思い込みによる無駄があれば改善べきで、そのために施設は成績を検証して国や国民に対し真摯な態度で情報を開示し、受診者に施設を選ばせ、検診に関わる規則や方法を正すべきと申し上げているに過ぎません。

新聞で健診センターを立ち上げた方の自伝を読みましたが、採算がとれるように執心されたことが書かれていました。ご努力に敬意を感じます。ただ、いかに優れた組織でも常に改善は必要です。残念ながら無駄な面に関しては充分に公表されていませんので、健診センターの存在意義が確実だとは誰にも言えません。 

外国では一般健康診断で寿命は延びないという統計(BMJ2012;345:e7191)すらあります。信じがたいことですが、我々が受けている健康診断も実は意外に意義が低いかもしれません。国内の施設も実情を公表することが望まれます。第三者による評価も必要です。それによってシステムの改善が可能になるからです。さまざまな問題をはらむ癌検診ではありますが、早期発見には有効です。
 



診療所便り平成25年2月分より   (2013.02.28up)