ムカツキの法則 

 子供が幼稚園の頃、「あいつ、むかつく〜。」と言うのを聞いた時は驚きました。「ムカツク」は、ちょっと気に入らないくらいでは以前なら使わなかった表現です。相手の人格の如何を気にしないような、生理的な嫌悪感を示している表現に聞こえますが、実際はそんなに深く嫌っているわけではなく、格好づけのために使われ出したのではないかと思います。

 面と向かってタンカを切る時は、表現を強くしないと意味がありません。「私はあなたをあまり好きになれません。」などと丁寧に話しては喧嘩にもなりませんから、虫が好かない程度の感情でも「テメエ、ムカツクんだよ!」と表現しないと使えません。それがテレビドラマなどで頻繁に使われますから、子供達も真似してしまいます。

 この言葉が気になったのは、この種の言葉をよく使っていた怖い先輩のうわさを聞いたからです。もちろん良くないうわさです。言葉が考え方を表すのか、言葉によって考え方が影響されるのか分りませんが、このような言葉を頻繁に口にしていると、社会に対する感謝の念に欠け、他人の批判ばかりする思考パターンができ上がるような気がします。

 考えてみると、どれだけむかついても相手にとっては本来どうでもいいことですから、「あらそう。勝手にむかついていれば?」と言われれば話が終わってしまいます。自分の感覚など重要でないことすら解らない甘えん坊であることを露呈してしまいますから、ケンカの時には別な文句の方がお薦めです。薦めちゃいけないんですが。

 また、我々は直感ばかりでなく頭の中で言葉を使って思考することも多いので、正確な言葉を使っていないと論理がゆがんで誤った結論が出る可能性があります。ケンカのタンカ用の言葉と頭の中で考える時の言葉が同じでは、冷静な判断ができるようには思えません。汚い言葉を使うことで、思考内容が自分中心に偏ったり、正確さを欠くことはないでしょうか?

 「ムカツキは自分の心を腐らせる。」そんな気がしませんか?



 窓口負担金について 

 8月から窓口での負担割合が1割から2割に増えた方がおられます。そして、その方たちは10月からは3割負担になるそうです。それ以外の方も徐々に負担割合が増えそうです。私が患者さんだったら、年金でやっと生活しているのに出費ばかり増えるなら、もういっそのこと倒れたら倒れた時で、血圧の治療は止めようと思うかもしれません。

 残念ながら私にできることは、患者さんの負担を考えた診療をするくらいです。予防医学こそ本当の医学だと信じて専門を選びましたが、優れた保険制度が保てないと病気を予防する意欲をなくす人が多いかもしれません。

 それにしても、自分自身の老後を考えても不安です。国民皆保険は破綻するかもしれません。でも民間の医療保険に加入すると、また出費が増えます。まったくムカツク話です。おっと、むかつきはダメでした。





診療所便りより    平成18年9月   院長 橋本泰嘉