血糖値の目標は?
血糖値の目標をどれくらいにすべきかと質問されることは多いのですが、病状に個人差が多いので画一的に決めないほうが良いと私は考えます。
もしかすると空腹時血糖は100以下、ヘモグロビンA1cは6〜7%などと先生から言われた人もいらっしゃるかもしれませんが、それが他の人に当てはまるとは限りません。ですから、他の方にそのまま教えてあげるのは止めたほうがいいと思います。
ACCORD試験という北米の研究では、血糖値を下げる効果を調べるため、患者さんの血糖値を正常近くまで一気に下げる方法で検討されました。ところが急激に血糖を下げたために低血糖や急死例が増えて、研究方法の変更を勧告されました。 急激に血糖値を下げたのは、そうすることによって狭心症が減るかを調べるためで、一般の診療の場合は一気に下げてはいけないのは常識です。ある意味では結果が最初から見えていました。研究の計画が良くなかったと思います。
でも、血糖値を下げると良くないなら血糖値が高くて良いと考えてはいけません。血糖値を低くしないと糖尿病の合併症が増えることも明らかです。
血糖値の状態は、血糖値とヘモグロビンA1cといった蛋白で判断します。血糖値が持続的に高いとヘモグロビンA1cなどの数字が高くなるので状態が判るからです。もし害がないなら、なるべく数字が低いほうが安心ですが、この「もし害がないなら」が大事です。絶対に害を出さないための判断力が要求されます。
ヘモグロビンA1cの正常値は5%くらいなので、せめて7%以下を目指したいところですが、簡単にはいきません。目標に達したとたんに失明したり倒れたりすることがあります。外科手術のように「状態が良くない、すぐ手術!」のような単純な考え方では失敗します。
本当は健診でやっと見つかるくらいの軽い段階から血糖値を正常近くに保ち、強い薬を使わないで済むのが理想です。ところが、そのような人達は40〜50代の忙しさに追われて、通院なんて考えられないという人がほとんどです。病気の人の1〜2割しか治療されていません。でも、病気の意味や自分の責任をしっかり自覚されていれば、工夫して何とか治療を続けられるでしょう。忙しい中で時間をやりくりして通院されている社長さんもおられます。
いっぽうで生活習慣病、成人病の人達が通院できるような体制が整備されていないことは、我々の側の問題と言えます。 当院が日曜診療をするのは、このような人達に治療の機会を提供する義務があると考えるからです。
血糖値の本当の目標は、病気の早期から血糖値が正常に限りなく近く保たれ、何の合併症も低血糖も起こさないで天寿をまっとうできるくらいの値と言えます。しかも、それが維持されることが理想です。簡単なことではありませんが、意義はあると思います。
平成21年6月 診療所便りより