
当院への時間外の電話は録音されます。勧誘やイタズラ電話が多いため、申し訳ありませんが直ぐに御返事できません。録音になることを覚えておいて下さい。返事がないのを電話がつながらないと勘違いして切られると、こちらから連絡できません。 今月は‘怪談’を御紹介します。最近発表された医学分野の怖い話です。
睡眠導入薬、向精神薬と死亡率
(向精神薬への誤解)
眠れなかった夜の翌日は、倦怠感を感じます。でも安易に睡眠剤を飲んでいると、薬の害が心配です。薬を使うかどうかは、病状に応じて考えるべきと思います。
薬の意味に関しては長年にわたる誤解が多く、一般的な常識も医者の考えも、あまり当てにならない面があります。そこで、“マイスリー”などの睡眠導入剤、“セレネース”などの向精神薬の害を検証する統計が発表されました(BMJ 2012; 344 doi:10.1136) (BMJ Open 2012;2:e000850 doi 10.1136)。その結果では、睡眠導入剤や一部の向精神薬は、わずかながら死亡率を上げる可能性があると述べられています。
(死亡率との直接の関係)
誤解してはならないのは、これは睡眠剤を飲むと寿命が縮まるという結論ではないことです。病状が悪くて薬を必要とした人が、必要としなかった人より経過が悪いのは当然かもしれませんので、短絡的に薬の害が大きいと判断できません。不眠や不安を我慢するのは辛いもので、いっさい薬を使わないのは非現実的です。また、特に患者さんが自殺を意識するような緊急事態においては、害を心配するよりも危険を乗り越えることを優先すべきです。 害に関しては緊急事態を乗り越えてから対処すべきで、もちろん慎重に判断する必要はありますが、まず危機を乗り越えなければ話になりません。
長いこと、うつ病の患者さんが抗うつ薬によって回復する際に、自殺が増える傾向があると教えられてきましたが、最近の研究では少なくとも統計的には、抗うつ剤によって死亡率は増えていないと言われています[Arch Gen Psychiatry.2012;69(6):580-587]。ですから、少なくとも薬剤や対象者を選ぶことで、弊害を最小限にすることはできそうです。 使用をためらって、危機を乗り越えられないような愚は避けるべきです。
(緊急時と安定期)
ただし、やはり薬害の可能性を認識することも必要です。薬によっては、若年者の自殺衝動を助長させる可能性が疑われるものがありますので、処方内容には注意が必要です。
また、処方後の調整も大事です。 病状は変化するものですから、緊急事態を乗り越え比較的状態が安定した時に、「この薬で安定したのだから、薬を減らさないでいこう。」と考えるのは正しいとは言えず、「安定したから薬を減らせるのでは?」と考えるのを基本とすべきと思います。 漫然と薬を続けることによって、今回発表されたような害が発生することもありえますので、緊急事態と安定期は分けて考えるべきです。 我々は、やや安易に薬を希望し、また処方しているように思います。
(患者側の考え方)
現実には、医者の側から薬を減らすように勧めるのは勇気が要ります。勝手に減らすことはできません。薬を減らすことに対する不安が病的に強い人も多いし、もし薬を止めた後に病状が悪化すると、著しく信頼を損なうからです。それで結果的にズルズル処方を続けているケースが多いのが現状です。
互いの信頼関係が成り立っていれば、医者の側は症状が安定した時期に薬の減量を提案すべきですし、できれば患者側からも提案して欲しいと思います。少なくとも薬害を避ける意味は、頭の片隅に置いていただきたいと思います。
具体的に、いつどのように薬を減量していくかは難しい問題で、しっかり管理できる体制をとれないと危険です。 処方内容によっては急に止めると非常に危ない薬もありますので、素人判断で勝手に止めたりはしないでください。
診療所便り 平成24年8月分より (2012.08.31up)
