糖尿病の薬と心臓病   


糖尿病の薬は近年、種類が急に増えました。発売された薬の効果や害を比較すると、昔の処方の問題点も明らかになってきました。薬によって心臓病の発生率に違いがあるか検討した研究が発表されていますAnn Intern Med.6 Nov2012; 157(9):601-610}。その中でメトホルミンという薬は心臓病の発生が比較的少ないという結果が出ていました。

高齢者の糖尿病患者を集め、狭心症や心筋梗塞の発症具合を調べると、一般的な糖尿病の薬であるSU剤で治療された方が年間1000人に18人、メトホルミンでは1000人に10人の割合で発症といった違いがあったようです。メトホルミンは軽症の方に使う傾向がありますので、心臓病も少なめに出ただけの可能性もありますが、報告では重症度などを調整して調べたと書かれていますので、薬の作用の違いによる結果だろうと思われます。旧来よくあったように、安易に速効性のあるSU剤を処方するのは問題だったと考えます。    

メトホルミンは、当院ではメトグルコという商品名の製品を採用しており、多数の患者さんに第一選択薬として処方しまいますが、日本の多くの医療現場では第一選択薬とは言えません。事務関係者からの圧力があるからです。もともと腎臓の悪い方には使えませんし、類似薬で乳酸アシドーシスという副作用が出たこともあって、添付文書に厳しい文言が書かれているせいだとも思います。    

例えば高齢者に処方すると、製品によっては「添付文書から見て不正な処方、保険組合からの支払いは認めません。」といった文書が来ます。不正請求として扱われるわけです。特定の会社が作ったメトホルミン製剤を使わないと、制度上は認めないという規定があるようですが、その規定に充分な根拠があり、国際的にも通用するレベルの判定かというと疑問です。 

医者が患者さんに良かれと思って処方し、その処方内容が国際的な指標では問題なくても、国内では患者さんの年齢の問題だけで罰せられる、そのような判断がまかり通っています。 現状のようになってしまった理屈は複雑なのですが、審査官の責任逃れの心理や規則の欠陥のなせる業のようです。 とにかく、医者はメトホルミンの処方を躊躇せざるをえません。では心臓病が多くなっても構わないから、他の薬を第一に処方するべきか? 私の感覚では、とてもそうは考えられませんが、日本では望ましくない処方が多かったと言えるでしょう。  

ただし、メトホルミンを使う前には、腎機能の確認は必要です。微妙な機能低下でも、薬の副作用を生じやすくする可能性があり、誰にでも使えるわけではありません。    



  診療所便り平成25年1月分より(2013.01.31up)