メタボ健診の基準変更?  


健康診断の案内が届いたら、なるべく受診して下さい。病気の自己管理につながります。
今後、メタボリック症候群の基準が少し変わりそうです。今まで90センチを目安にしていた女性の腹囲が80センチになるだろうと予想されています。腹囲90センチの女性は大柄の方に限られますから変更されれば現実的な判断だと思いますが、そもそも腹囲測定の意義が曖昧なので、また将来基準が変わるかも知れません。 
基準がどうであれ、検査されて何かの異常を指摘されたら、必ず対処が必要だと認識していだたくことが大事です。「メタボリック症候群でない。」と言われたら安心ということではありません。判定基準や制度のことは気にせず、検査項目の中で何にひっかかるかに注意すべきです。その理由を解説します。 


腹囲と生活習慣病の関係  
政府の研究チームがまとめた結果では、腹囲が大きな人は小さい人より生活習慣病の発症率が高い傾向は確認できました。でも女性の場合、どれくらいが目安になるのかは解らなかったそうです。
したがって、80センチという値も根拠が充分とは言えません。特定健診制度は既に始まっているのに、いまさら根拠がなかったなんて・・・と怒られるかもしれませんが、お腹周りと生活習慣病が関係していることは理論として間違いではないと思います。
太ると内臓脂肪から良からぬ物質が出て、糖尿病などの発症に関係すると思われます。ただ、その悪玉物質の量と腹囲が正比例の関係にあるとは言えないだけです。  


腹囲測定の問題点 
右の図のように、腹部の肥満が進むと脂肪が下に垂れる場合があって計測は不正確になります。さらに身長や骨格、腹筋の厚さ、皮下脂肪の厚さによっても値の解釈は違って当然です。
身長2メートルの人と150センチの人が同じ腹囲なら同等に扱うというのは、常識的に考えておかしいと思います。同様に、たるんだ85センチと筋肉隆々の85センチも同じではないはずです。
腹囲が一定なら脂肪から分泌される悪玉物質の量も一定かと言えば、そうとは限りません。そのため、そもそも基準の中に腹囲を入れるべきかどうか議論が残ります。外国では入れていない国も多いようです。参考になることは間違いありませんが、必須の項目とすべきかの判断は微妙です。 


コレステロールの基準の問題点
   
健診ではLDL(悪玉)コレステロールを測定しますが、測定精度の管理が難しく、しばしば値が不正確になります。他にもコレステロールの指標はありますし、しかもLDLコレステロールでは過去の総コレステロールのデータとの比較が難しいなどの問題もあり、一概に優れた指標とは言えない面もあります。総コレステロールも測定しておけば調整が可能ですが、費用を理由に検査項目から削除されたようです。
HDLコレステロールが低いか中性脂肪が高いことが診断基準に入っていますが、これらは喫煙の有無や血糖値とは重要度が違うようにも思えます。同列に扱っている今の判定は、根拠なく安易に決めているとも思えます。各項目で基準とした値の根拠も充分とは言えません。  


制度上の問題点
  
特定健診は、やりっぱなしだった過去の健診の反省に立っていますが、効果の検証が不足している印象はあります。
手順が複雑です。葉書をもらって病院を調べて連絡してから受診する必要があり、病院も市役所との連絡文書や電子媒体のやり取りが必要です。
財政が豊かな時代の発想が根底にあるように思います。健康保険や市の財政、人件費に余裕はないので、可能な限り単純化、簡素化、低価格化すべきと個人的には思います。  
健診は数万人単位で経年的に比較して初めて意味が出るので、基準をしっかり作り、変更して欲しくないと思います。途中で基準を変更したら、それだけで意義が薄れます。
また、懸けた予算以上の効果がなければ、事業としては失敗です。「もし無駄に終わったら、誰が責任を取る?」という意識も必要です。その点に関しては、明らかにされていません。  


健診結果が出たら(まとめ)   
以上のような問題点はありますが、基準や制度の欠点を無視すれば、受診者を増やし未病に抑えようという意図を評価すべきでしょう。ぜひ健診を受けるべきです。  
必ずしも判定を気にする必要がない場合もありますが、何かの項目で異常があれば放置はできないと考えるべきです。 大まかに言えば下記のように考えるべきと思います。   


①腹囲が基準より小さくても安心はできない   
②メタボ判定評価より各項目を重視すべき   
③血圧が高ければ迷わず下げたほうが良い  
④コレステロールも下げることを考える   
⑤血糖値が高めなら必ず管理が必要   
⑥タバコを吸っている人は、健診より禁煙が大事     


健診で血糖値やコレステロール、血圧の異常がある人は非常に多く、一般成人を対象にすると4割くらいになります。本当は腹囲より、そちらの管理体制を強化したほうが意味があるはずです。判定も単純ですし、管理の手間も省けるかもしれません。   
検査の中で、特に血糖値の異常は軽症の段階から神経や血管の病気に影響するので重要です(例New Engl J Med 2010; Vol362:
800-811)。
検査で少し引っかかるくらいから対処しないと、病気ができあがって治療も難しくなります。管理を怠るようでは、「自分を管理できなくて他も管理できるのか?」と疑われても仕方ありません。




診療所便りより 平成22年4月30日 橋本泰嘉