混合診療を拡げる方向が決まりつつあります。心配なのは、健康保険を使える部分が減らされ、良い治療は金持ち専用にならないかという点です。
お金がないために治療を断念せざるをえないのは辛いことです。基本的な治療には保険が使えるようにすべきです。いっぽうで保険財政の維持も大事で、無制限に健康保険の適応を広げるのも無理です。
新しい医療技術に保険の適応を認める際、政党の公約にして得票を狙う、あるいは業者と学会、役所の結託といった恣意的な影響を受けてはなりません。保険収載は、不透明性を排除できるように、独立性と自浄能力のある制度の元で決定すべきです。ところが現状は不透明な制度がまかり通っています。利益相反を明示できない人物は決定に関与しないよう、現行の仕組みは改定すべきと思います。
牛肉と乳癌
食事内容で癌が増えるのか、古くから論じられています。アメリカの大がかりな研究で、若い頃の肉(主に牛肉)の摂取が、乳癌の発生率を高めているらしいことが分かりました(BMJ2014;348:g3437)。
既に中高年に関しては、肉類と乳癌の関係は複数の論文で証明されているようです。若い時代は肉を食べないと元気が出ないのではないか?とも思うのですが、癌が増えるなら考えないといけません。
この論文の対象とした肉は牛肉と羊肉で、それらと豚肉、鶏肉などを比べ、また摂取量を検討した研究です。牛肉と乳癌がなぜ関係するのかは分かりません。肉に含まれる女性ホルモン様物質や細胞表面の蛋白、独特なアミノ酸のバランス、あるいは食べた人間に発生する女性ホルモン分泌の刺激などによって、未知の影響があるのでしょうか? 牛の成長や飼育の便宜のために与えるという薬物の影響も気になります。
脂身と赤い肉の部分との違い、あるいは調理方法(生焼けか良く焼くかどうか、煮物かどうか)による違いがあるのかも、はっきりとしたことは言えません。個人的には牛肉に限らず、肉類の調理方法としては蒸したり茹でたりして、脂分を減らして食べていただいた方が、過剰なカロリーを避ける効果があると思いますし、腸内細菌にも良い影響があるのではないかと想像していますが、この考えに充分な根拠があるわけではありません。肉汁を取り除くと、味の面の問題は生じます。
肉に限らず、食品と癌には関係があると思われます。有名な話では、大豆製品の多量摂取は、乳癌家系の方に限ると影響があると言われています。おそらくホルモンレセプターを持つ乳癌細胞に、大豆の成分が女性ホルモンと似た細胞増殖作用を起こしてしまうからと思います。ただし、大豆製品と牛肉の影響の比較などされたことがあるのか、よく知りません。あまり何でも制限すると、タンパク質の摂取量が不足してしまう危険性もあると思いますので、制限のしすぎには注意が必要です。
乳癌の発生率は、人種や家族による違いがあります。今は遺伝子検査で乳癌の発症率がかなり予測され、ハリウッド女優のように乳房を切除してしまう人もいるようですから、制限すべき対象者も絞り込めるのではないでしょうか?
この統計結果によれば、肉を減らすことによって発生率を理論上1−2割程度減らすことが可能のようです。人種や家系によっても違うはずですから、日本人で乳癌家系でない方は統計的に差がなく、この論文など気にしなくて良いかも知れません。日本人であっても、もし乳癌家系の方は、牛肉以外の肉を中心にしたほうが良い気もします。絶対に・・というほどではないと思いますが。
診療所便り 平成26年9月分より・・・(2014.09.30up)