TPPの交渉が進み、もし協定が実行されればどのような影響が出るでしょうか。
医療制度に変化はないと思いますが、輸入価格によって店の仕入先が変わり、店頭に並ぶ農産物の産地が変化すると予想されます。私は国産のほうを好みますが、国産品が全く並んでないなら諦めるしかありません。
また、食品の産地表示には抜け道が多いらしいので、産地が表示されていない商品が並ぶと、知らない間に外国産ばかり食べることになっていないとも限りません。 農薬や添加物が変ると微妙な健康被害が出てくるかもしれませんが、化学物質過敏症の判定はかなり難しいはずです。どう管理するのでしょうか?
個人的には政界や官僚機構を真っ先に交渉に乗せて、その面の問題点を一掃していただきたいと思います・・・無理でしょうけど。
運動、ダイエットと心臓病、糖尿病
(ダイエットの効果)・・・ダイエットにより腎症と網膜症は減る・・・
Look AHEADという研究があります。肥満体の糖尿病患者さんを集め、運動とカロリー制限をしたグループと、ただ講習をうけたグループを比較したものです。運動とカロリー制限は、腎臓病や網膜症の進行を抑制したものの、神経障害や心筋梗塞は減らせなかったようです(N
Engl J Med2013;369:145-154)。
(生活習慣改善の効果)
腎臓病や網膜症の進展を抑えたとすれば、それは意味があります。過去の臨床試験では、よほど早期に治療を開始し、血糖値も非常に下げないと糖尿病性の合併症は防げないという結論が主流でした。 つまり気がつかないうちに合併症が進行するために、予防できる有効期間を逃してしまう傾向があるし、低血糖すれすれになる危険を冒しながら、厳重に管理しないと合併症は進行するままという厳しい見方でした。
そのせいか薬物療法に関心が集まり、運動や食事に関しては多少いい加減になる傾向もありました。この試験で腎臓や目に良い効果が出たことで、あらためて生活習慣にも注意する意義を確認できると思います。ただし、ダイエットで失明や腎不全を完全に防ぐことができるという意味ではありません。
(効果の限界)・・・努力には限界も・・・
ただ講習を受けたくらいで、生活習慣を変えるのは難しいはずで、この試験の結果からも相当濃厚なアプローチがないと、効果を期待しにくいことがうかがえます。 また、この試験は体重100キロくらいの方達を対象にしていましたが、結局6-8キロくらいしか減量できていなかったので、もし20キロダイエットできていたら、さらに良い結果が出たかもしれません。
でも、激しいダイエットが難しいのも現実です。 6〜8キロのダイエットでさえ誰でも簡単にできるものではないと思います。そうなると、ストレスだけ形成される結末に至ります。多くの場合、それが実情でもあります。試験結果解析の対象外になった方達のほうが、むしろ普通の方なのかもしれません。
(臨床試験の限界) ・・・副次的効果・・・
生きている人間の統計ですから、化学実験より不正確さをはらみます。個々人の家庭の状況、仕事の状況によっては、論文と結果が随分違う可能性もあると思います。あくまで参考のひとつと考えるべきです。
生活習慣の改善には副次的な効果も付随し、また期待もできます。例えば、講習を繰り返し受けている本人を見た家族の反応ですが、家族が本人を褒めて勇気づける、感化されて共に健康に注意を始める場合はあると思います。協力しようという気持ちがはたらき、食事のメニューが変るかもしれません。
繰り返し講習を受けることが可能な人であることは、おそらく収入や時間だけでなく、精神的な余力、性格の特徴を持つ方かも知れません。 その特徴があれば、指示された以上の生活改善をしているのに、御自身はそうと認識しない可能性もあります。 我慢が苦にならない人もいます。 実は性格が最も重要、あるいは家族の協力が最も大事といった点を見逃しているのかもしれません。
そのような点の統計への影響に関して、評価することは難しいでしょう。
(運動の意味、限界)・・・運動は必要だが限界もある・・・
運動をすることで糖尿病の発症を減らせることは過去の統計で証明されていると言えます。 また、この研究でも運動によって体力が維持される傾向は明らかだったそうですから(New Engl J Med.2012;366:1209-17)、運動に意味はあります。
ただし、限界もあることは認めざるをえないと思います。激しく運動さえしていれば糖尿病になることはない、または糖尿病になった人は運動不足の根性なしに決まっているといった極端な考え方は間違いです。
厳しい食事制限、激しい運動に賭けてみようと考える患者さんは大勢おられます。 飢餓状態に近い状況にまで自分を追い込む人さえおられます。個人の考え方ですので尊重すべきですが、限界がありますので効果は確認すべきと思います。
診療所便り 平成25年10月分より (2013.10.31up)