ランタスと発癌性 


ランタスとは、インスリン・グラルギンというインスリン注射薬の商品名です。長時間にわたって一定の効果を示し、ゆっくり血糖値を下げるので低血糖を起こしにくく、注射の回数も少なくて済む利点があります。  


しかし問題もあります。発売当初から心配されていたことですが、わずかながら発癌性があるかもしれないという報告がヨーロッパの糖尿病学会から出てきたのです。具体的にどれくらいの発癌性があるのかは判りません。発売前からアメリカの食品・医薬品の管理機関を中心に繰り返し副作用を調べられていたのに問題は指摘されていませんでしたので、実は統計の間違いに過ぎないのかもしれません。


発癌性の報告は日本人の数倍の量で使っているドイツ人などからの報告ですので、日本人では参考にならないかもしれません。 また薬でも食品でも、発癌性が全くないものはないと考えられますので、あわてて先走った行動をとるのは正しいことではないでしょう。     


インスリン・グラルギンは本来のインスリンとは構造が少し違います。人工的に作ったインスリン類似物質というべき薬です。もともとインスリンには血糖を細胞内に取り込む糖代謝の作用とともに、細胞の増殖を促す作用があります。インスリン・グラルギンは、この細胞増殖作用がやや強いのです。そのため、癌が発生した時に、本来なら人間の免疫で退治できたはずの癌細胞が生き残る可能性があります。   


今の時点で注意すべきは、あせって自分の判断で量を減らしたり中止しないことです。血糖コントロールを悪くすると癌より先に血糖値の面で命に係わります。発癌性について現在検証中で未だはっきりしませんので、血糖値に悪影響のある変更は意味がないかも知れませんし、危険です。


ただし、インスリンを使う人の立場になって考えると、ちょっとでも発癌性がありそうなものは嫌です。はっきりしなくても不安ですから、別のインスリンに替えられるなら替えたいと私は考えます。特に使用量が多い人は念のため替えておいたほうが安心かも知れません。代替になるのは中間型インスリンかレベミルという製剤ですが、体質的に合わない人がいますので、全員切り替えるのは難しいかも知れません。統計の結果を確認できるまで様子をみたいと考えられるなら、それもいいと私は思います。



平成21年8月 診療所便りより