錠剤の管理
薬の飲み忘れ防止のために、錠剤を薬箱に分けることが流行した時期がありました。 今でも朝、昼、晩、眠前の枠に錠剤シートを切って入れる人がいます。 あれは飲み漏れを防ぐための工夫で、薬を飲み間違える認知症の方には有効な道具です。でも、薬箱を使っても細かい管理は欠かせません。
誤飲防止のために錠剤シートは2個単位で割線が入ってます。一個ずつではありません。一個ずつだとシートごと飲む人がいるので、わざわざ一個づつでは切れないようにしてあるのです。 錠剤シートを切って分けることは、この危険防止の工夫を台無しにしますので、止めるべきです。 これは繰り返し注意されていることですが、実際にシートを飲んでひどい目に遭わないと理解しにくいようです。
シートを飲んだ人は当院でも過去に3回ほど経験しました。内視鏡を使ってシートを摘出するのですが、シートで食道の粘膜に傷が付かないように、内視鏡の先端を加工したりする工夫が要ります。そうやっても、引っかかって取りにくく、粘膜が裂けたり出血したりして怖ろしい思いをします。 シートを飲まれた方にお聞きしたところ、まさか自分がそんなことをするとは思わなかった、自分で呆れたとおっしゃいますが、あわてておられた場合は、認知症とは関係なく飲んでしまわれるようです。
“完全分封”と言う方法で、錠剤だけを分ければシートを飲む心配はなくなりますが、錠剤に直接湿気や酸素が触れてしまいますので、薬が変性する可能性はあります。どうしても分封するなら、変性する可能性が低いように工夫しなければなりません。例えば吸湿性の少ない薬を選ぶ、酸化されにくいかどうか試験された薬を使う、そもそも一週間単位くらいの短期間分しか用意しないなどが、その工夫に当たります。
認知症が進んだ場合は、御家族の方が手渡しで飲ませるなどの管理も望まれます。 飲んだか飲まないか忘れてしまって何度も繰り返し飲んでしまうなどの事例は珍しくありません。 薬は、そもそも危険を伴うものです。薬箱を整備したから安全になった、管理する必要はないと勘違いしてはいけません。薬箱に分ける必要がある人は、そもそもひとりで管理することは難しいと思います。
平成24年4月診療所便りより (2012.04.30up)