骨粗鬆症の治療薬
腰椎圧迫骨折
腰が曲がってしまった方は、多くの場合、脊椎に圧迫骨折をされています。圧迫骨折というのは、普通の骨折と違ってボッキリ折れるわけではなく、つぶれるような骨折です。一気につぶれず、徐々に変形する場合は自分が骨折されていることを自覚されていない場合もあります。ただの腰痛と症状に大きな違いがないかもしれません。曲がった腰を伸ばして真っ直ぐにする方法はないかと思いますが、まさか人間をアイロンにかけるわけにはいきませんし、どう引っ張っても背骨を引き伸ばすことはできません。
骨センメント
近年は材料が進歩して、セメントのような物質を骨に注入することができます。潰れた骨を膨らませて元の形に近いようにし、腰を伸ばすことができるそうです。ただし、一箇所が元に戻っても、隣の骨に重みが集中して新たな圧迫骨折を引き起こす可能性がありますし、治療しても痛みに関しては差がなかったという研究結果もあります(NEJM 361: 619-621,2009)。必ずしも一般的な治療法とは言えないかも知れません。
予防薬と副作用
圧迫骨折への対策の基本は予防です。骨粗鬆症を予防するカルシウムが豊富な食事、適度な運動、姿勢に気をつけることが大事です。薬の効果も確認されていますが、副作用には注意しなければなりません。
大きな副作用のひとつは、腎臓への害です。カルシウムの代謝が狂って腎不全になることが稀にあります。また同じく稀にですが、虫歯の治療などをきっかけに顎の骨が溶け出す不思議な副作用もありえます。 薬によっては飲んだ後に食道炎を起こしやすいものがあります。そのために、そのような薬は内服した後にしばらく寝てはいけないという注意書きがあります。
平成19年に骨粗鬆症の新しい治療薬の効果が発表されました。
今までと違って、年に一回注射すれば効果があるという薬ですが、確かに骨密度を上げる効果があるようです。骨折を予防する効果が現在の薬と同等か否かは不明ですが、毎日もしくは週に一回薬を飲まなければならないのは面倒で、しかも飲んだら寝てはいけない、空腹時でないといけないなどの制約があるので、一回の治療で済むのは朗報です。ただし、この薬を日本で使えるようになるのは数年後かも知れません。
骨粗鬆症の治療薬は近年どんどん進歩しています。一日1回飲む薬から、現在の主流は1週間に1回で良い薬に移行し、さらに月1回でよい方向に変わりつつあるようです。ホルモン剤も有効性が高いことが解っていますし、痛みを伴う場合には、注射薬に有効なものがあります。
いつ骨折するか解らない、骨折なんてしないかもしれないのに延々と薬を飲むのはバカらしい気がするかもしれませんが、実際に骨折してしまうと何らかの後遺症が残りますので、明らかに危険がある場合は予防を考えるべきではないでしょうか。
骨折すると、一日中天井を見て過ごさなければならないことが多くなる、運動不足になって血管が詰まる、肺炎などの感染症の危険性がたかまるなどの様々な理由により、認知症が進行し、寿命が短くなる傾向があります。
私の経験でも、「あんなにしっかりされていた人が、骨折をきっかけに会話もできなくなったねえ。」と話すような方が、たくさんおられました。
残念ながら、治療により実際どれくらい寿命が延びるのかは、信頼できる統計がないので解りません。人種が違うとカルシウムの摂りかた、ライフスタイルも違いますから、外国のデータはうのみにできません。日本人の大規模な研究がされることを期待しています。
治療期間
予測が難しい副作用がある薬を長期間続けたくはないので、私は期間を決めて使うべきではないかと思います。5年ほどの内服で骨折予防に一定の効果があったという報告もあるからです。
治療の対象となる高齢者は腎機能も低下しているので、薬の思わぬ作用が出ることがあります。大丈夫と思っていた人でも、風邪などをきっかけに急に副作用が出ることもあります。
解熱鎮痛剤と併用した場合は特に要注意です。腰が痛いのなら痛み止めを使うのは当然ですが、痛み止めに反応して急に腎機能が落ちる人がいますので、急性の腎不全から血液中のカルシウム分の濃度がおかしくなりやすい状況になります。ひどい場合は命を失います。
虫歯を持たない人、風邪を絶対ひかない人はいません。怖い副作用にビクビクしながらも一生内服を続けなければならないほど、骨粗鬆症の薬の意味は証明されていないと考えます。
対象者
「明らかに骨折の危険が多い人」の代表は、リウマチなどの病気のためにステロイドホルモンの薬を飲まないといけない人です。私の患者さんでも骨折してしまった方が何人もおられました。その他に統計で危険性があると言われている人は、一般に高齢者、女性、喫煙者、骨密度が低い人、運動しない人などですが、例えば太ももの骨を骨折する患者さんの2割は男性ですので、男性だから予防しなくて良いというわけにはいかないと思います。
高齢者は全員薬を飲むべきかというと、そんなこともないと思います。よく骨密度測定の結果を持って心配して来られる人がおられますが、骨密度が低いから必ず骨折するわけではないし、骨密度が正常でも骨折する場合はありますので、食事や運動の状況、体力などを参考にして治療するか決めるべきだと思います。薬の値段も非常に高いので、単に骨密度だけで処方を決めるのは安易に過ぎるのではないでしょうか。
骨粗鬆症の治療薬で死にそうになった患者さんを経験したことがあります。骨粗鬆症予防薬は怖い薬ですから、血液検査をおろそかにしてはいけません。副作用はめったにないことですので、怖さを経験していない先生がほとんどですから、患者さん側から検査を希望すべきです。
食事に関して
予防のためにはカルシウムを多く含む食事が重要です。ただし、大量の牛乳を飲むとコレステロールなどの代謝に影響が出てきますので、コップ一杯くらいが適量ではないかと思います。
アルコールや脂分、リン分の摂り方も大事です。アルコールや脂、リンを多く含む食品は、カルシウムの吸収を阻害し、骨をもろくすると言われています。腰痛がある人は禁酒し、揚げ物、ポテトチップスなどリンを多く含む食品を制限したほうが良いと思います。
診療所便りより 平成22年1月31日