甲状腺機能について
院長 橋本泰嘉
今年は例年になく暖かいようですが、やはり地球温暖化のためでしょうか。
少しでも省エネしようと、私はこまめに電気を切りますし、家ではエアコンを使わないようにしていますが、家内が怒ってヒーターの温度を上げますので意味がありません。皆の意識が同じになるのは難しいと、つくづく思います。皆さんもケンカにならない程度に省エネに勤めて下さい。
甲状腺機能は代謝機能
私が甲状腺機能異常を診断した方は100人近くになります。診断を申し上げると皆さん驚かれますが、ありふれた病気です。特殊な病気と考えて無駄に放射線をあびる検査を受ける人がいますが、多くの場合は血液とエコー検査で充分に診断できます。
症状だけで診断するのは難しいと思います。看護師、医者でも病態を理解している人は多くないのですが、私はたまたま指導医が専門だった関係で少々詳しくなりましたので、自覚症状のない患者さんを発見できます。医者仲間には繰り返し甲状腺機能を測れ測れと勧めてきました。
甲状腺ホルモンは、代謝のスピードを調節するのが主な働きです。ホルモンが多い(機能亢進)時は脈が速く、食欲も進み活発で、田中角栄のような‘やり手’の感じになります。でも、多すぎると体重が減って動悸がひどくなります。逆にホルモンが足りない時は活気のない、元気が出ない感じになる傾向がありますが、程度が軽い時は簡単には分りません。
測る検査は、通常ならTSH(甲状腺刺激ホルモン)だけを基本にし、明らかな異常を疑う時(特にクリーゼという緊急性を要する場合)だけfT3、fT4(実際のホルモンの値)、抗体なども測定するようにすべきだと考えます。稀にTSHが指標にならない人がいますが、最初から他の項目を測ると、ほとんどの人では無駄な検査になり支払いも1000円くらい増えます。血液は通常保存できますから、異常が判明したら検査項目を追加すれば良いのです。
私は疑いの段階ではTSHだけを検査し、結果に異常があった場合に他のホルモンも測定して確認するようにしています。診察所見だけで確信がある場合は、最初から他の検査をすることもありますが、普通は無駄な負担を患者さんに強いないようにすべきだと考えています。治療の途中ではTSHだけ測定したり、fT3のみ測定したり、状況に応じて必要最小限の検査を選んでいますが、必ず複数の項目を測定している施設が多いのは不満に思います。見逃しが少なくなるのは良いことですが、やはり患者負担は減りませんから、もしTSH以外の項目を測られた時には、根拠を聞いてみるべきかも知れません。
どのような場合に検査すべきかですが、出産後体調が悪い時、コレステロールに異常がある、むくみがある、活気がない、脈が早いか遅い、体重が変化する、目の玉が飛び出してきた、肝機能異常がある、意識がおかしいなどの場合には甲状腺の異常の可能性があると考えて、念のため検査したほうが良いと思います。甲状腺が腫れているとは限りません。
頸のエコー検査もお勧めです。エコーの性能にもよりますが、検査すると数割の人に甲状腺腫瘍があります。もし癌があれば治療方針が変わってきます。ただし、命に関わる癌はめったにいません。実は私にも腫瘍がありますが、組織検査をせずに定期的にエコー検査で観察しています。脳に入っていく血管が動脈硬化で細くなっている人がいますが、これも簡単に分ります。
昔の教科書で勉強した人は、放射線を使う‘シンチ’という検査を多用したがりますが、今は費用や患者負担、発癌性のことも考えて、診断に苦慮する場合だけに限定すべきだと考えます。
腫瘍に対して治療をして反応を見ようという目的で薬をもらう人もおられますが、良性の部分を小さくしてしまう関係で、腫瘍全体が小さくなったかのように見えて癌の診断を遅らせる結果になることが懸念されます。そもそも薬が必要なのか、統計的な根拠にも乏しいかも知れません。癌を疑う場合のエコー検査は用心が必要です。おそらく三次元で正確に大きさを測るか動画で記録しないと、大きさや浸潤状況の評価は無理だと思います。
甲状腺機能は脈や体重、代謝に影響しますので、甲状腺だけを治療しても意味がありません。手術を受けた病院に数十年通院している患者さんを見て、ホルモン値だけを調べてあって、全身を診ていないことに驚くことがよくあります。外科や耳鼻科で治療した後は、必ずしも手術した科だけに通うのではなく、全身を見るセンスでフォローすべきだと考えます。「ホルモンを正常にしたから、問題ないじゃないですか!」と言われる先生がおられますが、心機能や血圧、糖尿病のコントロールが悪化することなどが結構あります。
代謝疾患へのセンスがあれば問題ないと思いますが、ただ採血しているだけでは悪化して始めて気がつくのが現実です。ホルモンの検査を勧めても拒否されて変だなと思っていると血糖値が変動して、問いただすと甲状腺の治療を開始していたことを内緒にされていることがあります。他の病院に行くと気を悪くすると考えて秘密にしていたようです。患者さんの心理にまで気をつけて、徹底的に連絡し合うようにしないといけないと思うのですが、医療機関も認識不足のようです。
私は自分の腫瘍が甲状腺癌と分ったら、別府の野口病院にでも行こうかと思います。放射線治療が必要な人は専門病院に行かなければなりません。そのような特殊な場合を除けば、むしろ全身疾患の管理をする観点から、代謝内分泌科で診てもらったほうが良いと思います。甲状腺ホルモンは代謝を調節する働きがありますので、ホルモンだけ治療しても、代謝が狂えば寿命を縮めてしまいます。そうなると、何のために治療したのか解らなくなります。