警鐘ビジネス 


イギリスの麻疹、風疹、おたふく混合ワクチンで自閉症が増加したとする論文が発表されましたが、撤回されたそうです。
論文作製にあたって、代替製品の開発を目論んだ製薬会社や、反ワクチン団体などが関与した計画的行為であった疑いがもたれています
BMJ2011;342:c5258)。


いっぽう文芸春秋本年1月号には、抗癌剤は無効だとする論文が掲載されていました。抗癌剤を売り込むために、治療結果を捏造まがいの方法で歪曲し、誇張しているという内容でした。文中で抗癌剤すべてが無効だとは述べていませんが、読んだ人は「抗癌剤って意味がないのか。」というイメージを持つかも知れません。   


医学の発展のためには「常識は間違っていないか?」と疑って再検討する必要があり、常識に警鐘を鳴らすのは必要です。でも、それをビジネスにするのは問題です。データ捏造が疑われる場合には照会も必要ですが、雑誌上あるいは直接の質問が原則だと思います。告発している自分が誤っている可能性もあるし、売名の意図が少しでもあれば、それは学問を装った商売であり、学問への信頼を損なうからです。  


一般に他を攻撃して自分の優位をアピールしたほうが商売上、有利になるのは確かです。「あの店はダメです。私どもの店は、このように優れています。」と言われると、そうかも知れないという気になります。 攻撃=警鐘は営業上の武器です。それに乗せられないように注意したいものです。


雑誌やテレビを利用する先生にも、それなりの考え方があり、おそらく「広く啓蒙するため」「学会が古い考えに固執するため」といった理由で正当化されているのでしょうが、一般のメディアを利用する場合は、その影響に責任を持つ必要があります。でも読者の誰がどのように理解したのか把握できるでしょうか? 誤解した患者さんが抗癌剤を中止したために寿命が短くなっても、責任の取りようがないと思います。 


仮に意図が純粋なものであれ、医学雑誌以外の出版物に論文を掲載すること自体、売名的行為で慎むべきでしょう。 


テレビの健康バラエティ番組の多くも、誇張や誤認が目立ちます。すべてが間違いではないはずですが、医者の私も正誤を見分ける自信はありません。 名声や集客を目論んだ発言もあるはずですので、話半分で聞いたほうが良いと思います。




平成23年2月診療所便りより(2011.02.28up)