ピロリ除菌する?しない?

ピロリ菌を除菌すると胃癌の発生率が下がります。そのため、菌の存在が確認され強い胃炎もある場合は、健康保険を使ってピロリ菌を退治する治療(除菌)が認められています。   
ただし、除菌すれば安心かというと、そうではありません。 実際の効果を調べた統計が発表されています(BMJ2014;348:g3174)。

2〜10年の調査での胃癌発生率は、除菌したグループが1.6%、除菌しないと2.4%だったそうです。つまり除菌しても癌になる人はいるし、しなくて癌にならない方も多いようです。
このような結果は以前から報告されており、そのため除菌を保険適応にすべきか曖昧だという意見も根強くありました。そのため、癌の発生率が除菌でゼロになるなら保険を使うべきだが、微妙な違いだから自費でやらせようという時代がしばらく続きました。
ただし、いかに癌の予防効果が低いと言っても、菌がいると判っていて放置し、もし実際に癌になると強く後悔するはずです。個人の生き方や、御家族との相談で決めるべきことなのかも知れません。  

除菌の効果の判定には、複雑な二次効果が予想されることもあって、結論というのは出にくい気がします。例えば、除菌が広く地域全体に拡がり、ピロリ菌の存在が非常に稀になるとすると、家族や友人を介して菌に感染する確率は下がるはずです。すると、除菌をしてくれた祖父母、または食事を共にする周囲の方達のおかげで、孫世代の胃癌発生率が下がることになります。
もちろん、これはピロリ菌が人から人に伝染していくことを前提とした考え方で、ハエなどの動物を介する影響の方が大きい場合は、また効果は違ってくると思いますが、もし孫を救うためなら効果の見通しがつかないとしても、意気込みは違って来るでしょう。  

除菌の際には抗生物質を通常の倍量で飲んでもらいますので、かなりの方に副作用が出ます。ほとんどは下痢や胸やけで、薬を中止すれば改善します。非常に稀には抗生物質や胃酸抑制剤に過敏な方もおられ、その場合はショック状態に陥る可能性もあるので、最低限の注意を忘れてはいけません。 
でも命に関わる副作用は滅多に出ないので、怖れすぎる必要はないでしょう。胃酸の出方が急に変わる関係で、しばらく逆流性食道炎が発生してしまう方はいますし、その他まだ判っていない副作用が出ないとも限りませんが、過去に薬の副作用が出たことがない人でピロリ菌が陽性と判ったら、除菌を試みてみることも考えるべきではないかと思います。   




   診療所便り平成26年8月分より・・・(2014.08.31up)