持続型インスリン
@持続型インスリンとは
インスリンは血糖値を下げるホルモンで、糖尿病の治療に使います。速効性のものは食事ごとに使い、食事で上がる血糖を代謝させるために有効です。持続型のものは、血糖値を全体的に下げる目的で使います。持続型という言い方は、言葉どおり長く効くインスリンであるという意味です。注射してから10時間くらいをピークにゆっくり効果を示しますので、血糖値の上下が緩やかになるのが特徴です。
A器具の進歩
昨年から持続型インスリンの器具が使いやすくなりました。具体的には、レベミル注フレックスペンと、ランタス注ソロスターという商品が発売されたためです。
特にランタスの場合、以前はオプチクリック300という名前の注射器が必要で、これにインスリンのボトルをはめ込んで調整してからでないと実際の注射ができませんでしたし、注射器に不具合が発生して何度か回収されました。ランタス注ソロスターは、インスリンと注射器が一体となった使い捨て製剤ですが、今のところ不具合は発生しておりません。
Bインスリンの意義の変化
持続型インスリンの開発によって、糖尿病の治療方針自体が少しずつ変ってきつつあります。
持続型インスリンは、飲み薬で治療しても効果が不充分な時に使えば、ほぼ確実に寿命が伸びると断言してもいい薬です。
ゆっくり効くために、急な低血糖を起こしにくいのが良い点です。一日一回の注射で済むので比較的苦痛が少なく、注射を始める際に踏ん切りがつきやすいことと、血糖値を全体的に下げるので量の調節が簡単にでき、必ずしも入院を必要としないことなどが理由です。昔と違って、飲み薬と併用することも多くなりました。
長く経過を見た患者さんの治療内容を考えてみると、「注射は患者さんが大変だし、本人も希望していないから使えない。」と考えて飲み薬を続けた場合は、ほとんど例外なく合併症で苦しむ結果になっています。
逆に早期にインスリンを始めた人には、何の合併症も発生せずに、驚くほど元気な人がおられます。インスリンを補充することで、その人の膵臓が守られることがひとつの理由のようです。
コントロールが良くない場合、もしインスリンを簡単に導入できるなら、早期にインスリンを導入するという考え方が主流です。
そして器具が安心して使えるようになったことで、それが現実味を帯びてきたのです。
もちろん注射の治療は良く効く反面、さまざまな注意が必要で、自己流の判断ばかりでやっていると命にかかわります。繰り返し勉強し、生活全般を管理することが必要です。
C病気の治療に関する考え方
一般の人の糖尿病に関する感覚は昔からあまり進歩していないようで、インスリンをお勧めすると、「もっと悪くなってから注射します。」と、よく言われます。
初期の病気には簡単な治療、注射や手術はひどくなってからという昔の認識が残っているからでしょう。
手術に関しては、今でもそのような感覚で間違いではないと思います。しかし糖尿病の場合、我々医者は悪くなった患者さんを見ていますから、悪くなってからでは効果的な治療法がない、したがって早期にインスリンを使うべきと考えます。
でも一般の人はそうではありません。手術が必要な病気と、予防が必要な病気は分けて考えるべきなのに、それができていないようです。
人間の血管を高い血糖に長期間さらすと障害が発生し、結果として動脈硬化が生じます。異常な状態にさらす時間を減らすことが、血管を守るためには必要です。これは多くの臨床研究で証明されていることです。
若く、病気になって日が浅い人ほど血糖を下げる意味があると思われます。
要は食事療法で血糖が速やかに改善する傾向にあるかどうかを判断し、改善が現実的に難しい場合は血糖値を下げることを優先し、効果が証明されているなら害を覚悟のうえで薬物を使うという考え方が大事なのでしょう。
もちろん副作用の多い薬では、より慎重になるべきですが、薬害を恐れるあまり食事療法に固執するのは、安易で誤った道です。
診療所便りより 平成20年8月