インスリンの後発品
最近、国は先発医薬品から後発医薬品への切り替えを勧めています。薬剤費を抑え、医療費を減らそうという狙いです。今年初めて、インスリンの後発品が発売されました。‘インスリングラルギンBS注「リリー」’という名前です。
この製品に関しては‘ジェネリック’という言い方をせず、‘バイオシミラー’という表現をしています。遺伝子工学の手法を用いて生産し、生化学的に同等といった意味合いのようです。現在、‘ランタス’というインスリンを使われている方は、変更を検討してみられてはいかがでしょうか。
ほぼ同じ効能で、値段はかなり安めになります。
ランタス、あるいは今回発売のグラルギンBS注というインスリンは、長時間安定して作用するよう人工的に加工されています。原料を混ぜて簡単に合成できる品物ではありません。
まず人工的に作った遺伝子を、それ用の細菌に組み込み、その細菌を使って目的の物質(インスリン)を増やす製法で作られます。作るためには大がかりな培養設備が必要です。品質管理も簡単ではありません。間違った遺伝子を合成していないか、狙った蛋白が作られるか、その純度や濃度、実際に血糖を下げる効果など、確認すべき点はたくさんありますので、普通のジェネリック医薬品とは違う性格を持ちます。
また、インスリン注射器具にも様々な特許があります。インスリンの液がいかに正確に作られようとも、それをそのまま注射することはできません。専用の器具にはめ込み、器具が不具合なく正確に、しかも耐久性も充分に保って使えることが必要です。そのため、参入できる会社は限られ、薬の値段が高いのが問題です。今回は、もともと他のインスリンを作っていた大手の会社だから発売できたのでしょう。一本の値段でも数百円は安くなるので、月々の支払いもかなり割安になるはずです。
当院は、副作用の有無を確認してから採用する方針です。発売後1ヶ月の時点で、特に著しい害が発生したという報告は聞いていませんが、医薬品の評価には時間がかかり、まだ油断できません。 先発品とジェネリック品は、主成分は同じですが、製造過程が異なります。もしかすると体質に合わない方がいるかも知れません。記載されている添加剤は同じようですが、表示されていない成分もあるはずですので、微量の物質に反応して皮膚炎を起こす人はいるはずです。
また、効果も微妙に違うはずです。インスリンの場合は、微妙な効果の違いが低血糖、高血糖につながるの可能性があるので、切り替える際は頻繁に血糖を確認する作業が必要になるでしょう。全員切り替えることは難しいと考えています。
診療所便り 平成27年9月分より・・・(2015.09.30up)