インスリンアドバイス     

インスリンを1日に数回注射されている患者さんは、血糖値が急に変動した時に、どの程度注射したら良いのか迷います。通常と同じ量では血糖値も通常通りいくはずがなく、場合によっては低血糖や高血糖で倒れてしまいます。
そこで、携帯電話のような機械に血糖値に応じた注射量を計算させ、血糖値を安全に調節できるか試験が行われました(Diabetes Care July30,2013doi:10. 2337)。 

体調が悪い時はシックデイといった言い方をし、インスリン治療中の患者さんでは細かい注射量の調節が必要になります。インスリンを上手に使えば血糖値を正常近くに維持できるものの、間違いがあれば危険を伴います。そのため、患者さんには本や勉強会などを利用し、突発的な変化に自分で対応してもらえるように勉強してもらいます。 
ただし実際のところ教育入院で糖尿病の勉強をしても、判断能力を上げるのは簡単ではありません。既に高齢になられた方の場合は特に学習は困難です。医者のアドバイスの代わりを機械にやらせるのは、自然な流れかもしれません。   
この機械は、血糖値のコントロールを改善し、重大な問題は起こさなかったと報告されています。 技術がさらに進歩すれば、さらに機械に調節してもらう手段も増えてくるかもしれません。 

既に欧米では、血糖センサーつきのインスリン持続注入器が発売されています{JAMA.2013;310(12):1240-1247}。
血糖値が下がると警報を出す機械はあったものの、なぜか実際には効果が少なく、低血糖発作を管理できない状況が続いていましたが、機械が改善されて自動的にインスリンの注入量を減らせるようになってからは、明らかに低血糖は減っているようです。コントロールが悪化せず、さらにセンサーが正確なまま耐久性を持つなら、また一段と進んだ器具が誕生したことになります。    

一般の糖尿病の患者さんにとって望まれるのは、食事のカロリーを表示させる器具、最近の食事内容や血糖値から計算して、次の食事の内容や運動の目標を具体的に指示してくれる器具ではないかと思います。 自分の感覚まかせにしていたら、なかなかダイエットはできません。機械に食事を写すと自動的にカロリーが表示され、警報が鳴るようならどうかと思います。
もちろん、機械にあれこれ指示されると次第に腹が立ってくるでしょうから、誰もそんな機械は買いたくないかも知れませんが。 

血を採取しないで血糖値を測る機械が待たれますが、なかなか実用化に至っていないようです。でも、きっとできると思います。様々な機械、器具があっても値段が高い点が非常に気になりますが、特許の関係、輸入される際の制度のせいのようです。国産化や制度の改善によって、値段を下げることも大事だと思います。

今回のアドバイス用の機械はあくまで助言を表示するに過ぎず、食事療法や運動療法が必要ない治療法が見つかったというわけではありません。長期間にわたる治療には嫌気がさしてしまいがちで、何か任せてよい機械が出ないかなと思いたくなるのも人情でしょうが、今の時点での器具や薬は、総て治療の補助手段に過ぎません。主体は患者さん本人であり、病院のスタッフや家族、器具の類もすべて補助的なものです。我慢強く食事療法、運動療法、薬や検査を組み合わせ、利用できる器具は使いながら、継続していただく必要はあります。   





平成24年11月診療所便りより(2013.11.30up)