インクレチン
今年の秋から来年にかけて新しい糖尿病の薬が発売されます。インクレチンというホルモンに関係した薬です。最初に発売される飲み薬はジャヌビア、グラクティヴという名前です。
インクレチンは消化管から分泌されるホルモンで、インスリンのような血糖降下作用とともに膵臓を助ける効果もあり、しかも体重を増やさないと言われていますので、薬として理想的かもしれません。ただし、消化管の動きを遅くする作用もありますので、大量に使うと吐き気などの副作用が出るでしょう。 薬としての強さについては、今のところ強力とは言えないという評価が出ています。
薬の効果がマイルドなのは、悪いことではありません。あまり強力だと低血糖を起こして倒れる人がいるので、使い方が難しくなります。その点、今回発売の薬は、他に糖尿病の薬を使っていない限り糖の下がり方は激しくないはずですので、使いやすいと思われます。1日一回の内服で済むというのも便利です。
血糖が高いことは動脈硬化の危険因子ですから、高いままにすることは避けるべきです。「インスリンは嫌だから・・・」と高血糖状態を放置される人が多いのですが、そのような方達はどんどん倒れていきますから、今までの飲み薬で効果が出ない場合には、多少の不都合があっても新薬を試す意味はあると思います。
ただし、この系統の薬を当院はしばらく使わない方針です。理由は、
①薬の値段が非常に高いと思われる
②効果がマイルド(強力でない)
③安全性に多少の疑問がある
④消化器系の副作用が予想される などです。
安全性が確認できたら採用しようと考えています。
何も根拠があるわけではないのですが、発癌性も気になります。薬の発癌性は、発売後10年近くして解る場合があります。自分が飲むとしたら、発癌性に関しては明確にして欲しいものです。専門家(各大学の教授達)は安全だとおっしゃっているようですが、今まで自称専門家に何度も騙されてきましたから、新薬の場合は慎重にしたいと思います。
消化管ホルモンは通常は速やかに代謝されることで機能が成りたっていますが、これを薬で変えた時に、どのような副作用が出てくるのか予想できない部分があります。何か栄養素の吸収に影響が出る、何かの細胞の増殖を生んで発癌性につながるということは、ありえないわけではありません。
冒頭で述べたジャヌビアとグラクティヴは、インクレチンを分解する酵素を阻害することによってインクレチンの働きを助けようという薬です。杞憂かも知れませんが、この酵素が別なホルモンの分解にも関与していた場合は、相当やっかいなことになります。我々の体の中には未知のホルモンがたくさんあるはずですが、そのホルモンの分解が阻害されて効果が強く出る場合は、当然ながら症状も予測できません。
自分が薬をもらう時を考えると、他に替え難い素晴らしい効果のある薬なら仕方ありませんが、代用できて安全なものが他にあるなら安い製品のほうが有り難いと考えます。私はいつも自分が受けたいと考える治療、処方をしております。 安全性も不確かな高い新薬は患者さんにも病院にも負担ですから、あせって使う必要はないと思います。
これから発売される新しい薬には期待が持たれますが、当院は市販後の評価を確認してから導入を検討するつもりです。
平成21年12月05日 診療所便りより