昨年の今頃は新型インフルエンザが発生して騒ぎになっていましたが、思えば当時の対応には不可解な点が多々ありました。空港での検疫に効果があるのか?ワクチンが間に合うのか?と、疑問に思いました。 
もしかすると、「何もしないと批判される。」という怖れから、場当たり的に対処されたのかも知れません。 今後、日本に大きな危機が訪れたら、ちゃんと対応できるでしょうか?見当違いの命令を乱発して、敵より国民を困らせることがなければいいのですが・・・。 
正しい意見が見当違いの反論に負けることは多いものですが、国民の命に関係する場合は困ります。迷信や勘違いに捉われず、的確に対処できる仕組みが望まれます。組織が機能しない時は意志決定のルールから考え直すべきです。議論の進め方、資料の集め方を始め、システムを改めるべきと考えます。 


 院外処方のルール変更 


今年度からのルール 
今年度から院外薬局(処方箋調剤薬局)の処方の基準が変わり、後発(ジェネリック)医薬品を出すと薬局の収入が多くなることになりました。
また、薬品は基本的には薬局が自由に選んでよいことになっています。そのため、大きな病院で処方される薬にジェネリック医薬品の占める割合が増えてくると思います。値段の安い医薬品を使うことで、医療費を節約しようという政策によるものです。  
患者さんにとっては薬代が安くなる利点があります。もし薬を変えようと言われたら、「じゃあ、今まで私達が高い金を払わされるのは気にならなかったの?」と聞いてみると面白いでしょうが、ちょっと意地悪になります。 今後は薬の品質や管理体制への注意が必要です。 
 


医薬分業  
大きな病院は、既にほぼ分業されています。そもそも医薬分業とは、薬を処方するのを医者と歯科医師など、調剤するのは薬剤師だけと限定することです。 
日本では近年まで病院内で処方されることがほとんどでしたが、進駐軍時代の命令の流れで戦後は医薬分業が推進されています。法律上、原則として調剤は薬剤師にしか許されていません。 
ただし、その根拠はたいしてありません。西洋で歴史的に分業されていたからだけと言えます。 功罪については御存知と思いますが、薬の確認が二重になり、説明が丁寧になったという利点と、手間や時間がかかって面倒になったこと、費用効率が良くないことなど様々な問題点があります。患者さんが分業に満足しているとは思えません。   


後発品の性能の問題 
今回の制度の改定で、問題点のほうの影響が強まる可能性があります。例えば、替えた医薬品によって副作用が出る、または効果が不充分に終わるかも知れません。困るほどの害はないことが多いのですが、ジェネリック医薬品の検定は作る製薬会社に任されていますので、多少虚偽の効能が謳われている可能性も否定できません。飲んでみないと結果が解らないのが現状です。そもそも品質が客観的に評価されていない薬を国が推奨するのは問題ないのでしょうか?   


管理体制の問題 
医薬分業は、管理方法として独特の危険をはらみます。病院の医師はジェネリック医薬品を知りませんので、つまりは自分が知らない薬を調剤してもらい、害が出たら自分の責任になります。
実質的に薬局が薬を決めますが、効果の判定は医者が行いますので、お互いの連絡がスムーズに行くことが非常に大事です。仮に医者が「この製品は性能が悪いのではないか?」と感じても、薬剤師が確信を持てず、他の製品がない場合は処方が続く可能性もあります。副作用が確実な時は薬を中止する責任がありますが、微妙な場合は判断が難しいでしょう。
車を例にとれば、トヨタの車を日産販売店で買うようなもので、微妙な不具合への対処は最初から期待できません。薬局と医師が互いに責任を持って業務を分担すると言えば聞こえは良いですが、一種の縦割り業務、机上の空論、根本的にまずい手法と思えます。実際、私が病院勤務時代に薬剤師と連絡しあった経験はほとんどありません。    


院内処方の手間   
当院は院内で処方しておりますが、これは副作用の管理とサービスのためで、収益の上ではマイナスです。院外処方にすれば病院と薬局双方の収益効率が上がりますが、収益ばかり考えるのは嫌なので院内処方を続けています。もし大きな病院でも院内処方を続けていたら、きっとポリシーを持つ施設だと思います。 
院内処方では手間がかかるのが欠点です。当院では処方を間違えないために、糖尿病や血圧の薬などは5回も確認作業をしています。それだけ心を込める意味はあると考えています。 
さらに最大の欠点は、併せ呑み(相互作用)の確認が難しいことです。人によっては自分がもらっている薬を忘れていたり、秘密にされる場合があり、処方同士が重なる危険があります。時間をかけて患者さんから聞き出す必要があり、この点に関しては薬局には敵いません。 その点を最優先すべきと考えるなら、他の問題には目をつぶるしかありません。 


医療費を高騰させた原因 
医療費は、そもそも外国と比較すれば高騰しているとは言えません。ただし、金額が年々増えていることは事実です。実際のところ無駄も多いと思います。最大の無駄は医薬分業かもしれません。分業を維持するためには高いコストが必要です。ただし国民の多くが、それを覚悟できているのか疑問に思います。経緯を知らないうちに分業が進み、高い金を払わされている方がほとんどではないでしょうか。       


費用効率   
薬局が存続しうるためには、それだけのお金が必要です。財源と患者さんのお金が無尽蔵にあれば構わないかもしれませんが、今の保険財政を考えると分業にこだわるのは疑問です。 
また、処方や調剤ミスに関しては医薬分業をしてもなくなりはしませんので、分業がミスの管理のために必須とも言えません。院外薬局の調剤ミスが少ないのかどうかも、確実な報告を見たことはありません。 
管理も大事ですが、管理を強化したつもりが手続きを複雑にし、ミスを誘発し、結局は効率が悪くなってしまうということはよくあります。もっと効率を重視してもいいような気がします。インセンティヴを儲けて医薬分業とジェネリック品の導入を推進するのは、見当違いの政策ではないでしょうか。  


まとめ(注意点) 
患者さんとしては、薬が変更された時に、主治医は薬を知らないのだと認識しなければなりません。信頼している病院、優秀な先生だから信用というわけにはいきません。ジェネリック医薬品に関しては情報がないので、医者も薬剤師も薬の性能を知りようがないのです。
副作用がどのような形で来るか解りませんが、発生する可能性は低いので、内服を中止するようなことはすべきではないと思います。血圧の薬などは続けないと危険です。
不幸にして何かの異常を感じた場合は、我慢せずに直ぐ薬局か病院に連絡しなければなりません。薬局と病院の連絡が上手くいくか解りませんので、相手に任せず両方に連絡するべきかも知れません。
軽い副作用の場合は薬を続行すべき場合もありますので、自分の判断で中止しないで下さい。 



平成22年5月30日 診療所便りより   
   



「準備が大事よね」「うん」