薬屋さんからお聞きしたことですが、甲状腺のホルモン剤は日本全国で唯一、福島県で作られていたそうです。ところが3月の震災の影響で工場が稼動不能になり、輸入品が出回ることになっています。 フランスの会社の製品だそうです。
全国で一箇所しか作る場所がなかったというのは、生産の効率を上げるための方針だったのでしょうが、危機管理の点から考えると危険なことでした。厚生省などの役所が管理できる規定がなかったのかも知れませんが、少なくとも会社としての倫理、義務感から判断して東西に分散して配備しておいて欲しかったと思います。
甲状腺ホルモン剤をたくさん飲むと、骨折が増えるのでは?という論文が発表されました(BMJ2011;342:d2250)。論文では確かに飲んでいる錠数が多い人のほうが、骨折の発生率が高めでした。でも、直ちにホルモンの作用で骨折が増えたとは言えません。
可能性として、@錠剤特有の副作用で骨がもろくなる、Aホルモンで体調が良くなって行動が活発になり骨折の機会が増えた、B甲状腺ホルモンには骨に対する未知の作用がある、C甲状腺ホルモンと同時に分泌される別なホルモンに骨を強くする作用があった、Dもともとの病気で骨が脆くなっているので、補うための錠数も多く必要だっただけ、等が考えられますが、統計の間違いかも知れませんので結論を出すには早いと思います。
甲状腺ホルモンを補う必要があるのは、主にホルモン不足で心不全を生じる方です。甲状腺機能の低下は徐々に来るので、「齢のせいか息が切れる。」と言っておられる方の中に、実は機能低下症の人が混じっています。
補い方には注意が必要です。軽い機能低下だから大丈夫と思って私は失敗したことがありますが、急にホルモン量を正常化すると心不全を起こされたり、別のホルモン不足を起こすことがあります。長年かけて起こった機能低下は、やはりゆっくり補正する原則を忘れてはいけません。また、今回のような思わぬ害もありえますので、最適な量を慎重に選ぶ必要があります。
診療所便り・平成23年7月分より・・・(2011.07.31up)