ヘルペス 


‘ヘルペス’には、様々な症状があります。
ヘルペスウイルスは一種類ではなく、口の周りなどに出る1型、水ぼうそうや帯状疱疹を作る3型などありますが、神経の中で持続的に感染し、しばらくたって再燃症状が出現するという性格を持っています。  


最近、ウイルスが免疫をすり抜ける機序に関する研究が日本から発表されましたが、なぜ神経の中で長期間生き残ることができるのか、詳しい機序の全体像を私は知りません。おそらく誰も知らないと思います。


水ぼうそうは一週間くらいで消えますが、ウイルスはなぜか神経の中で生き残り、だいぶ後になって帯状の水ぶくれを作ることがあります。なぜ一度よくなった後に皮疹が出現するのかも知りません。体調が悪い時に出やすいと言われますが、元気な人にもよく出ますし、抗がん剤などを使って弱った時にも必ずしも出ないようです。ウイルスに抵抗する抗体の量だけでは説明できないように思います。  


帯状疱疹は普通1度しかかからないと言いますが、絶対ではないようです。後遺症で神経痛が残る人もいますので、高齢者の場合は治療を急いだほうが良いと言われています。発症した後の帯状疱疹の治療は抗ウイルス薬の点滴ですが、点滴回数が多いことと副作用も少なくない関係で、入院してもらっていました。


帯状疱疹の痛みが続く人もおられて、痛みで不眠になるほどひどいこともあるようです。麻酔科でブロック注射を受ける場合もあります。温熱治療が効く人もおられます。    


1型(単純疱疹)ウイルスによる口の周りの水泡を年中繰り返している人もおられますが、元気に生活されていて特別免疫力が低いように思えないので不思議です。これも抗ウイルス薬の処方をすることがありますが、治療した場合に回復までの日数が少し短くなるものの、歴然たる効果があるとは言えないようです。 


性器ヘルペスは通常2型のヘルペスウイルスによって起こりますが、1型でも発症することがあります。治療法は同じですが、やはり症状を繰り返す人もおられるそうです。1型や2型への高濃度不活化ワクチンを作れれば予防できるのではないかと考えますが、実用はされていません。 


他にもヘルペスの仲間はいます。赤ちゃんがかかる突発性発疹は6型ですが、薬剤の副作用で長く発疹ができる薬剤性過敏症症候群(DIHS)の場合に、このウイルスは活発になると言われています。妊婦さんや移植を受けた人で問題になるサイトメガロウイルスは5型です。リンパ節が腫れるなど、血液病のような症状の伝染性単核球症の原因であるEBウイルスは4型です。 


予防が可能なのは、通常の場合3型だけです。3型(水痘・帯状疱疹ウイルス)については水痘ワクチン一回の接種で9割くらいの人に予防効果があると言われています。1割くらいの人がワクチン接種していても水痘に罹るそうですが、重症化はしにくいようです。  


ワクチンで予防した人は、おそらく20年くらいすると感染予防効果は下がってくるはずで、大人になって水疱瘡にかかる人もいるでしょう。したがって、かかったことがない人は10〜20年ごとにワクチンを受けるべきかも知れません。  


「水疱瘡くらいは皆かかるから、心配ない。」というのは一般的な常識ですが、中には重症化する人もいますし、将来の帯状疱疹の予防を考えるとワクチンにも意味はあると思います。


高齢者の場合は統計的にもはっきりしていて、水痘ワクチンを射つと帯状疱疹の発生率が減ります(注 確実なのは海外で作られている帯状疱疹用の製品です。2009.11.30補足)。これは、幼少の頃に得た免疫が次第に失われてしまうのをワクチンで活性化することで、ウイルスが活発になるのを防ぐ効果があるためと考えられています。帯状疱疹で運悪く神経痛が残ってしまうと、年中痛みをこらえなければならなくなりますから、自分も年をとってきたら、ワクチンをしようと考えています。





診療所便り 平成20年7月より