
肺癌健診の現状
肺癌は治療成績の悪い病気です。早期発見が難しいせいだと思います。アメリカにおける普通のレントゲンと高性能のCTによる健診の結果が発表されました(N Engl J Med 2011; 365:395-409)(JAMA2011;306:1951-2048)。
発表によれば、CT、レントゲンいずれの方法でも疑陽性(癌でないのに癌疑いと診断)が94〜97%もあり、精度の問題がありました。この試験で見る限り、レントゲン健診では肺癌による死亡率を減らせていないようでしたが、CTではレントゲンと比べると死亡率を2割ほど下げる効果がありました。この状況は日本でも同様と思います。
ではCT健診を増やせば問題ないのでしょうか? CTで見逃しがなく、放射線を浴びることによる害がなく、時間も費用もかからなければ、そうかもしれません。でも、性能の高い機械を使い、優れた検診方法を整えても、タバコを吸う人が減らない限り癌は減らないはずです。肺癌死を減らすために最も必要なことは禁煙です。 タバコ以外の原因による肺癌も多いはずですので、禁煙だけで肺癌がこの世からなくなるとは言えませんが、発生率が格段に違って来るはずです。禁煙で心臓病も劇的に減るでしょう。
CTは年々性能が上がって瞬時に数百枚の写真を撮ることができるようになり、放射線被爆量も減っています。でも頻回に検査すると発癌の危険性は否定できません。費用もかかります。忙しいのに時間を割いて検査に行く必要があります。さらに、CTでも発見できない癌はあります。残念ながら、それが肺癌検診の現状です。できることが限られている、だから禁煙してもらうしかない、禁煙がうるさく叫ばれるのは、そんな理屈です。
今のスタイルの肺癌検診を続けるべきか、それに自治体の費用を使うことを許して良いのか、明確には言えないと思います。今の検診事業の根拠はもともと曖昧です。 ただし、肺癌に関しては非効率的ながらも発見がないわけではありませんし、肺結核や心臓病の発見に役立つ面はあります。 個人的な印象としては、CTでもレントゲンでも肺癌検診は不充分、非効率的すぎるが、他に良い方法がないので今の検診を続けざるをえないように思います。
将来はレントゲンを使わず、尿か血液中のマーカーを測定する方向に移行していくはずですが、まだ鋭敏なマーカーが確立できていないので、現実には施行できていません。よい検診方法が確立するまでは、とりあえずできること、すなわち禁煙が望まれます。
もちろん、喫煙者にも権利や自由はありますから、タバコを力ずくで取り上げるようなことはできませんが、喫煙者の医療費に非喫煙者の保険料を使わせるのは公平な負担とは言えませんし、発癌性の疑いが高い物質を周囲にばら撒くことも道義的に問題ですので、自重しようと考えるべきではないでしょうか。
診療所便り平成23年12月分より (2011.12.30up)
