肺炎球菌ワクチンの問題点 


肺炎予防のためのワクチンが開発され、当院でも接種を受け付けております。大人用は製品名ニューモバックスで、子供用のプレベナー(PCV7)というワクチンも、小児科では春から使えるようになっています。子供用は主に髄膜炎予防が目的です。


ワクチンは肺炎(注:重症の肺炎に限定されるかも知れません。2013.07.16)や小児の髄膜炎などの発生率を減らすと言われています。ただし、当院では積極的にお勧めしておりません。効果に限界があるからです。


ワクチンが製品として開発されるまでには血液中の抗体価を上げる効果があるかどうか、重大な副作用が出ないかどうか、実際に投与して肺炎の発生率を下げるかどうかといった試験をされています。効果があることは間違いありません。ただし、病院に肺炎の患者さんがたくさん来られるかと言えば、確かに稀ではないものの、頻繁とは言えません。特に元気な方では簡単に起こるものではありません。元気な方に投与する意味は、それほど高いとは思えません。


肺炎の原因は肺炎球菌だけではありませんので、ワクチンで完全に予防することはできません。ワクチンをしていても肺炎に罹る可能性はあります。 ある時、病棟に入院している肺炎の患者さんの全員が、肺炎球菌以外の菌による肺炎だったこともあります。ワクチンは肺炎を予防すると言うより、原因の一部を減らす効果があると理解すべきでしょう。


私は自分にはニューモバックスを接種してもらったことがないので痛みの程度は解りませんが、接種された方にお聞きする限り、一般のウイルスに対するワクチンよりも腫れの程度が強い傾向があるようです。含まれる物質の量や分子の大きさ、起こる免疫の反応には違いがあるのかも知れません。発熱する率も高いような印象ですが、これも当院だけの現象かも知れません。


ニューモバックスは、繰り返し受けないように注意書きがあります。少なくとも接種後5年間は繰り返さないほうが良いと言われています。5年経てば問題なかったという報告もあるようですが、激しい反応が起こる可能性もありますので、高齢者は一生に一回しか射たないくらいに考えたほうが良いかも知れません。接種の間隔に関しては、今後注意書きが変わるかもしれません。


また最近、ワクチンの影響を受けにくいタイプの肺炎球菌(19b型)がワクチンをした人に付きやすいという報告もありました(JAMA 2010;Vol.304(10):1099-1106)。


つまり、学校や幼稚園など接触する機会が多い集団では互いの肌を介して菌が移動しているのですが、肺炎球菌にもいろんなタイプがあって、ワクチンを受けている人にワクチンが有効な菌は生着できないので、ワクチンが無効な菌だけが生き残り、やがては集団としてもワクチンが無効な菌が蔓延する結果になるというわけです。


そのような菌が蔓延したから直ちに髄膜炎が増えるという意味ではありません。ワクチンの臨床的な有効性が下がるかもしれないという意味で、実証された結論ではなく、あくまで推測に過ぎません。インフルエンザと少し似ていますが、肺炎球菌もワクチンと菌とのイタチごっこになる傾向はあるようです。    


肺炎予防ワクチンには意味があります。呼吸器系に持病を持つ人の肺炎を減らす効果が証明されています。ただし広く子供たちに接種した場合に、先ほど述べたような集団としての感染予防、社会的な感染コントロールがどうなるか不安です。


開発治験中の製品(PCV13)は、問題の19b型菌にも有効かもしれません
やがては良いワクチンが出てくると思いますし、どの集団にどの程度使うのが効果的かも解ると思いますが、現時点でのワクチンの意味合いに関して、専門家も含め、まだ誰も理解できていないというのが現状だと思います。




診療所便り 平成22年12月分より(2010.12.30up)