肺炎球菌ワクチンの二次的効果 

(アメリカでの現象)・・・肺炎球菌ワクチンは肺炎を減らす・・・
小児用肺炎球菌ワクチンは、髄膜炎の予防を主目的に接種されます。このワクチンを広く接種すると、接種していない世代の重症肺炎まで減るらしいことが解ってきました(New Engl J Med2013;369:155-163)。    
この現象はアメリカでは既に2004年頃には明らかになっていたそうですが、その後も効果が持続しており、米国全体では年間数万人単位で入院を減らしていると考えられます。報告が正しければ、おそらく子供が媒介する菌の蔓延を抑えることで、結果として住民全体に良い効果をもたらすのでしょうが、この効果は接種率が低い国では期待できません。  

(肺炎球菌ワクチン)・・・7価、13価、23価の3種類・・・
肺炎球菌は、乳児を中心として重症の感染症(重症の肺炎や、髄膜炎、敗血症)を起こし、老人においても重症肺炎の起炎菌になります。ただし、広く存在する常在菌でもあります。 菌には多くの‘型’があるそうで、その中で感染の機会が比較的多い型に合わせて23価、13価、7価の3種類のワクチンが製品化され、国内でも使用可能です(7価は使われなくなりそうです)。 
いくつか注意点があります。まず、注射部位の疼痛が他のワクチンに比べて大きい印象があることです。ワクチンの主成分も、一般のウイルス用のワクチンとは違います。そのためか大人用のワクチン(23価)は、2回目の接種で激しい副作用が出る傾向があり、少なくとも5年は間隔をあけるか再接種しないよう推奨されていました(少しずつ推奨内容が変りつつあるようです)。 値段が非常に高い点も、このワクチンの注意点です(補助制度はあります)。常在菌を対象とする関係もあり、7価ワクチンの接種が進むと、7価以外の型の菌が増える現象も注意点です。    

(PRSPの問題) 
副作用が少なくないワクチンなのに接種を勧められる理由のひとつに、抗生物質の耐性菌が増えていることがあります。PRSPと略される菌は、その代表です。ワクチンはPRSP感染のコントロールに役立つと思われます。
PRSPへの殺菌効果があるわけではないし、抗生物質の必要がなくなるという意味ではありません。 重症の肺炎球菌感染症が減れば、抗生物質の使用量が減るはずですので、結果的に耐性菌が減るかも知れないという意味です。
抗生物質が大量に必要とされ、耐性菌が蔓延する事態は改善する必要があります。実際にワクチンにより、国内のPRSPを減らせるかは解りません。 日本は事情が特殊で、普通の風邪や中耳炎などに片端から抗生物質を使うので、歯止めはできないかもしれません。  

(混合感染)・・・混合感染を減らしているのか?・・・  
肺炎球菌ワクチンが勧められる理由のもうひとつは、様々な菌による肺炎を減らす効果があることです。不思議なのは、アメリカでも小児用ワクチンは限定した菌にしか効かないはずなのに、肺炎球菌に限らず総ての菌の肺炎による入院を減らしていることです。
特定の型に限定したワクチンで入院数に大きな改善が見られたのは、意外にも思えます。 代表的な型を選んでワクチンが作られた戦略が成功し、肺炎全体の数にまで影響しえたのかもしれません。 
また、‘混合感染’への効果も考えられます。この場合の混合感染は、例えば肺炎球菌と肺炎桿菌など複数の菌が同時に感染した状態のことです。炎症を起こした肺組織には他の菌も侵食してくるはずですので、起炎菌とともに肺炎球菌が増えることで重症化する肺炎を、ワクチンで減らす効果があるかもしれません。日本の老健施設でも、肺炎球菌ワクチン(大人用)の導入後に、各種起炎菌を含めた肺炎の総数が減ったという報告があります。  

(23価ワクチンの影響)  
もしかすると、論文の結果には大人への肺炎球菌ワクチンが流通した影響もありえます。 アメリカの場合は既に半数くらいの老人が23価の大人用ワクチンを接種されているそうです。その効果と相まって見かけ上、子供用のワクチンの効果と判定されているのかもしれず、小児用ワクチン単独の効果だと断言できない気がします。論文を読んだかぎり、その面の影響をどのように排除したのか解りませんでした。
いずれにせよ、いずれかのワクチンによって重症の肺炎を国家的規模で減らせることに違いはなく、ワクチンに意義があると思います。 

(肺炎球菌ワクチンの意味)・・・ワクチンは重症化を減らす・・・ 
ワクチン接種の意味合いは、本来の意義より子供の数や国の経済的状況、栄養状態、親の心情などに左右される面が大きいと感じます。 ワクチンを作る会社の宣伝も、医者や役人達の考え方に影響を及ぼしています。
一般的意見として髄膜炎は非常に悲惨ですので、その確率を減らすワクチン接種は推奨されるべきでしょう。髄膜炎の後遺症の子供を持つ家族の気持ちは、なってみないと理解できません。
ただし、重篤な副作用の危険性もあり、充分に説明できればという条件はつきます。そして‘充分な説明’は往々にして不可能です。ワクチンの後遺症で苦しむ子供や家族の気持ちも、やはり他人には解りません。圧倒的多数の子供は、ワクチンなしでも髄膜炎など発症しないことも事実です。 
国家的見地から言えば、肺炎の入院を減らすワクチンは推奨されます。死亡率を下げ、医療費も節約できるからです。肺炎を減らす効果が、今後も続くかは注視する必要があります。特殊な型の菌が増えて、将来再び重症の肺炎が増えてくる可能性も否定できません。 
成人用肺炎球菌ワクチンの意義に関しても、断言する言い方は難しいと思います。肺炎が減るとしたら良いことですが、過去に例のないほどの高齢化社会では介護費用を想定以上に増やす結果となり、社会全体が疲弊化することも考えられます。 
常在菌を対象とするワクチンの意味は解っていません。常在菌のタイプが変ることで、新たな免疫系の異常が発生する可能性もあります。我が国のワクチン接種が進み、自分は接種しないけれど社会全体の免疫で守られた人が、海外に出た途端に感染するという現象もありえます。 
ワクチンの効果は‘肺炎にならない’というより‘重症化する率が減る’と考えたほうが良いようで、その点は他のワクチンと同様です。また、中耳炎のような日常的感染症も減らせないようです。肺炎球菌による感染症をなくすワクチンではありません。





    診療所便り 平成25年10月分より   (2013.10.31up)