癌検診
鼻炎持ちの私にとって春は辛い季節ですが、近年に発売された薬は効果があって眠気が少ないので助かります。さて、皆さんは花粉症の減感作療法をご存知でしょうか?少しずつアレルギーの原因物質を与えることによって反応を穏やかにする治療法です。現在は花粉を少しずつ注射していますが、ショック死の可能性があり通院も面倒なため、花粉のグミを作って口を介してアレルギー反応を抑えようという研究がされています。うまくいけば薬が要らなくなる人もいますので、一般に使えるようになったら、さっそく自分で試してみたいと思います。
癌の予防と検診
◇当院の実績◇
重いテーマですが、癌の予防と検診について述べます。昨年度に当院で診断された癌の患者さんは6人でした。病気が病気ですので全員は完治できていませんが、最少の検査でベストの治療に結びつけることができたと自負しております。私はよく癌を発見するので、教授から癌センターに行けと勧められたことがあります。症状がなく見落としそうな癌をいかに発見するか、また診断しやすい癌の場合はいかに速やかに発見し、確実な治療に結びつけるかが腕の見せ所です。話だけで診断できることも多くなりました。勘に頼ってはいけませんが、おそらく同じ診断をするのに大きな病院では倍以上の時間と費用がかかるだろうと思います。ただし、見逃しはあります。レントゲンに写らない肺癌と、さわって分らない乳癌では何度も失敗しています。
◇PET検診の効果は?◇
癌検診のやり方は非常に難しいと思います。どんな癌でも見つかるという触れ込みのPET検査が流行ですが、6人の患者さんのうち1人の方はPETを受けても発見されていませんでしたので、やはり万能の検査ではないと感じます。おそらく今後は解像度が上がって今より診断能力は上がると思いますが、現時点ではPETだけで癌をすべて発見するのは無理のようです。
検診の効果を検証すると怖くなります。現在の胸部レントゲン健診のやり方では、発見は増やしますが肺癌の治癒率をたかめる効果は充分ではありません。これは肺癌が拡がりやすい性格を持っていて、写真に写った時点で勝負が決まっている場合が多いことが理由だと思います。また、大腸癌検診では判定が陰性の人の中にも多くの癌患者がいますが、仮に住民全員に内視鏡をしても発見率が低く、検査での事故もありますので現実的ではありません。乳癌の場合は触診だけでは効果が低いので、超音波やレントゲンを含めた検査をしなければなりませんが、費用の面には目をつぶらなければならないでしょう。
◇検診の経済学◇
ある経済学者によれば、現在の検診方法によって医療費を節約することはできないそうですので、市や会社が費用を補助するのは予算の無駄使いと言えるかも知れません。あまり費用のことを言うと検診の意義を軽視していると思われそうですが、数百兆の借金を抱えた日本では費用と効果のバランスを考えないわけにはいきません。箱物の公共事業と同じく、私たちの健診費用は、税金などを介して結局は子供や孫達も払うのですから、無駄を除く努力をすべきだと思います。
◇人間ドックは古い?◇
癌検診は命を救うカギですので、全く検診をしないのは問題です。ただ私見を述べさせてもらえば、各地の健診センターでやっている人間ドックは効率がいいように見えて実は無駄が多く、時代遅れだと思います。大規模にやれば効率が良かろうという発想でやられていますから、どうしても不必要な検査もやらざるをえず、「自分にはレントゲンは要りません。胃カメラでバイキンをもらうのは嫌なので、消毒を念入りにした内視鏡でお願いします。コレステロールは治療中なので検査しません。」といった注文は効きません。
流れ作業で多数の患者さんを検査するためには、スピードを優先せざるをえません。そのために消毒がおろそかになり、内視鏡などを介してピロリ菌やウイルスを感染させていた可能性があるとあると思います。少なくとも検査で何の害もなかったと断言できる検診施設はないでしょう。
そして、そもそも効果や費用についての検証が不足しています。発見率と見逃し率、検診費用と医療費の節約効果のバランス、検診を受けるか受けないかで寿命にどの程度の差があるか等を公表しない限り、公的な金を使ってはいけないのではないかと思います。本来なら医者と相談して意味や効果を確認し、オーダーメイドのように検診すべきだと考えます。もちろん、医者には相当な能力が要求されるでしょうが。
◇予防について◇
もし効果が証明されるなら、予防には予算をかける意味があると思います。確実に癌を減らす方法として、家族の誰かがタバコを吸っておられたら禁煙が一番です。タバコによって発生が増える癌を、検診ですべて発見することは到底できません。喫煙自体は個人の自由ですが、他の人に影響を与える可能性がある以上、権利ばかりを尊重してはおれません。家庭はもちろん、飲食店や会議室など自分以外の人がいる所での喫煙は、人に癌を発生させる可能性のあるモラルに欠けた行為だと思います。
胃癌に関しては、胃の中の細菌(ピロリ菌)の除菌は有効と思われます。いっぽう、大腸がんを食事の内容(野菜を増やすなど)によって予防できるかについては否定的な統計もあり、結論が出ていません。
肝臓癌は、ウイルス性肝炎の患者さんの場合はインターフェロンや抗ウイルス薬による治療に予防効果があります。
サプリメントで確実に癌の予防効果を証明されたものはありませんが、緑茶には何らかの効果があると言われています。もしかすると禁酒で食道がんや肝臓癌などの発生を減らせるかもしれませんが、劇的というほどの効果はないようです。
(ほら見たことか、だから積極的に飲もう!という意味ではありません。)
診療所便りより 平成18年4月
院長 橋本泰嘉