癌遺伝子への対応
ハリウッド女優が乳房や卵巣を摘出したニュースは、大きく報道されました。卵巣切除に関して今回、ひとつの統計が発表されました(JAMA Oncol.online April23, 2015.doi:10.1001/jamaoncol.2015.0658)。死亡率だけを比べると、特定の遺伝子を持つ方は卵巣を切除したほうが、成績は良いようです。
問題の遺伝子はBRCAと略されるDNA領域で、この部分は癌の抑制に関わっていると言われています。そこに何かの問題があると、癌の抑制が効きにくい場合があり、乳癌や卵巣癌の発生率が高くなる傾向があるという理屈のようです。
延命効果だけを考えれば、BRCA遺伝子に問題がある方の場合、確かに効果はありそうです。おそらく、卵巣を取って女性ホルモンが不足する状態を人工的に作ると、ホルモンによる癌への発育増進作用が減るようです。
理由は分かりませんが、エストロゲンというホルモンのレセプターがない症例でも、卵巣摘出は効果があるようです。卵巣からは色々な物質が分泌され、乳癌の発育に影響しており、卵巣切除がそれを阻止するのかもしれません。
@費用の問題 この遺伝子の検査は今のところ非常に値段が高いそうですが、国などが主体になれば、おそらく問題にならない値段にまで下げることはできると思います。仮に検査で癌になる確率が高いと分かった場合に、どのように考えるべきか、そこが非常に難しい問題です。予防のために乳房や卵巣を取るべきか、昔なら考えることもなかったはずの問題です。手術は当然、お金がかかります。
A更年期症状 外見のことを考えれば、乳房より卵巣のほうが取りやすいと考える人がいるかも知れませんが、取れば女性ホルモンが急に減るので更年期症状が激しいかもしれませんし、手術合併症も危惧されます。乳房も卵巣も両方取らないと意義が薄いかも知れません。
B無駄な切除の危険性 ただし、遺伝子に問題があっても癌が生じない方は多いので、無駄な切除例も相当数になると思われること、人種が違う場合の結果が分からないこと、他の統計で必ず同じ結果が出るか不確実など、まだ誰にも断定的なことが言えない状況です。こういった結果で不安を煽るのは問題です。
当面は東洋人の統計を待つべきと個人的には思いますが、乳癌が多い家系の方は悠長に構えるのも不安でしょうから、乳腺外科と相談されたほうが良いかも知れません。健診を受けていれば安心と言える保証はありません。
BRCAに関しての治療は、日本人でも延命効果はあるだろうと思いますが、非常に微妙な差しかない場合は、検査も手術も結局はあまり意味がない可能性もありますので、少なくとも乳癌家系でない一般の方があわてて検査する必要はないと思います。
平成27年6月診療所便りより・・・・・(2015.06.30up)
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