副鼻腔炎の治療指針(2012)
[治療指針]
副鼻腔炎は風邪の後によく発生する病気で、鼻の周囲の空間に起こる炎症です。ウイルス感染が主体と思われますが、細菌が居座ると鼻詰まりや鼻血、痛みや倦怠感など、さまざまな症状を残します。細菌性副鼻腔炎の治療指針(標準的な考え方)が発表されています(Clin Infect Dis.(2012) Doi;10.1093/cid/cir1043)。その内容は、日本の耳鼻科、小児科の治療法とは相当違ったものです。
国際標準が常に正しいとは言えませんが、参考にはすべきでしょう。
「風邪をひいて2日目に、鼻づまりに対して抗菌剤のオゼックスをもらった。」というのは、身近ではよくある処方です。でも必要性や有効性が不明、耐性菌の発生は確実、薬害もありえるなど、思い込みだけで根拠の薄い処方と言えるかもしれません。海外の情報を鵜呑みにして日本の医者の勘と経験を無視すべきではありませんが、統計を参考に常に治療法を再考して適性化すべきと思います。
[副鼻腔炎の症状]
副鼻腔炎はつらい病気です。鼻が通らないので、口で呼吸することになり、息苦しい、だるいなどの症状は大なり小なり出ますし、安静にしても良くならず、しつこく症状が続くなどしてイライラさせられます。でも、もともとそのような病気です。
稀に即効性の治療を必要とする場合はあります。周辺の組織に炎症が及ぶ場合は、失明や全身的な感染症につながりますから、鼻だけの病気と考えていては危険です。ただし、だから最初から全部の患者に強烈な治療をすべきという理屈は成り立ちません。髄膜炎などの発症予防に関して、抗生物質が確実に有効とは言えず、使っていても発症するからです。それに、稀な患者を救うために多数の人に必要のない治療をやってしまったら、道義的に問題です。
[鼻水の治療]
鼻水を減らす薬には注意が必要です。風邪に限れば、鼻水をとめる薬は一般に病気を長引かせると言えます。統計で結果が出ていますから、それを無視して鼻水の薬を使うのは問題です。何かの事故につながる可能性も無視できません。鼻水の薬は眠気や微妙な判断ミスを生じる傾向があり、かなりの人が風邪薬のせいで交通事故を起こしていると思われます。ただし、絶対に飲んではいけない薬とも言えません。 明らかに鼻の症状が睡眠障害を来たしている場合などは試してみる意味があると思います。
[抗アレルギー剤]
抗アレルギー作用のある薬はたくさんあります。本来、保険診療では風邪には適応外で処方してはいけませんが、鼻水止めとして安易に代用される傾向があります。効果が出るまでの時間は薬による差がありますが、少なくとも即効性を期待すべきではありません。したがって、効果が出た頃には症状は自然によくなっている場合も多いと考えられ、そもそも処方に意味があったのか疑問のケースを見ます。
根拠、効果の実証を求める、そのような考え方は、病気に限らず一般的なことや日常の判断にも望まれます。理屈を気にせず即効性だけ気にする思考法だと、後で害を気づくことがあるのは、誰でも日常感じておられるはずです。
風邪や副鼻腔炎に関してもそうで、あまり神経質になり過ぎても仕方ありませんが、病院と患者側の双方が指針を参考に、繰り返し治療を適正化することが望ましいと思います。
診療所便り 平成24年10月分より (2012.10.31up)
