インフルエンザワクチンの効果       

インフルエンザワクチンは肺炎や脳症の発生率を減らし、死亡率を下げると言われてきました。でも、効果は変動するはずですので、繰り返し検討する必要があります。今年、慶応大学がワクチンの効果を検証して発表しました(PLOS ONE doi:10. 1371,2015)。    

この論文は細かい点まで検証されたとは言えない内容ですが、症状の抑制に限って言えば、@生後11ヶ月以下の子供には効いていない、AA型インフルエンザには効くが、B型にはあまり効かない、B2回接種したほうがA型には効くなど、実際の臨床の印象に近い結果でした。    

入院率はワクチン接種者のほうが断然低いため、一定の効果は確認されたようです。 でも感染予防に関しては、ワクチンの効果が限定的であることも明白で、せっかく痛い思いをして接種したのに感染し、ワクチンに意味はないと思える場合があることも、統計的にちゃんと出ているようです。 

この論文には、その評価に関わる問題があります。インフルエンザの感染は、簡単には分かりません。感染しても症状がほとんどないことは結構多いのですが、そんな人はまず病院に行かないでしょうから、統計に反映されません。
そのように今回の統計に入っていない感染者も含めると、結果が全く違うかも知れません。また、一般に行われるインフルエンザの検査はあくまで簡易検査ですから、重症感染者でも陰性の結果しか出ないことはあり、この統計でそれが見逃されているかも知れません。
この論文は、実臨床の外来レベルでどのような判定が出ているかを検討したもので、ワクチンの効果、その意味を正確に把握できるものではなく、参考資料にすぎないと思います。

今年度のワクチンはB型ウイルスを2種類想定して作られています(今まではB型については1種類のみ含まれていました)。予想した型と違うタイプのウイルスが流行る傾向があるので、ワクチンに含める成分を増やし、予想が外れる可能性を減らそうという判断です。 これによりB型ウイルスに対する効果が上がるかも知れませんが、目立った改善はない可能性もあります。蛋白量が増える関係で、副作用の発疹や熱発が増えるかも知れません。 

今後、インフルエンザウイルスの型に関係なく、ウイルスに共通する部分を認識できるワクチンが開発されると報じられています。実際のウイルスを、うまく抗原として認識させることができるかどうか、感染予防、重症化予防の効果が本当にあるかなど、検討すべき点は多いですが、もし開発できれば死亡率が下がるばかりか、寝込む可能性さえ減るかも知れません。接種の回数も、うまくいけば数年ごとくらいで充分になる可能性があります。   

ワクチンに限界があることも明らかです。接種していても感染して、寝込んでしまう人は結構います。予防を軽視すると、肺炎や脳症で亡くなる可能性があります。流行時期には感染予防の意識をしっかり持つべきです。 


 
 診療所便り 平成27年11月分より・・・(2015.11.30up)