新型インフルエンザ対策2014
(新型インフルエンザ)
インフルエンザウイルスは、たびたび型を変えます。時期は解りませんが、新しいウイルスの発生も時間の問題です。発生したら、病院や学校関係者に限らず、ほとんどの人に影響が出るはずです。そこで国は対策会議を開いており、当院にも結果が送られてきます。その内容を見ると、国に過度の期待をすべきではないと感じます。SFドラマのようにヒーローが我々を救うことも期待できません。自分達で乗り越える工夫をすべきです。
(当院の対策)
当院で専門的なことはできませんが、すべきと思えることは以下の点です。
@衛生用品の買い置き、
A抗ウイルス薬の備蓄、
B感染者と一般患者を分ける工夫。
薬や物品の備蓄は薬屋さんなどに相当されているそうですが、流行の早さや規模によっては不足するでしょう。院内に買い置きすると、期限切れで損が発生しますが、損失を怖れて備蓄しないのは問題です。 御家庭でできることも、できればしていただきたいと思います。マスクで完全な感染防御はできませんが、エチケット上の必要があり使用期限も長いはずですから、皆さんもマスクだけは買い置きされたほうが良いと思います。
(発生初期の基本的対策)
もし発生したら、センセーショナルに報道されるでしょう。パニックに陥ってはならないのですが、この世の終わりとばかり繰り返し報道されると、不安感は生じるはずです。対応策はウイルスの性格によって変ります。以下は私の個人的な考えで厚生省の推奨内容とは多少違いますが、発生後の基本的対策は
@流行地への旅行は控える、
A手洗いマスク着用を徹底、
B密室、換気不足に注意、
C毒性に関する情報に注目、
D抗ウイルス薬やワクチン接種に過度の期待をしないこと、
E症状の個人差を認識しておくこと、を勧めます。その他の注意点については、厚労省の情報を参考にして下さい。
まず、微妙な症状しか出ないことがあるという認識を持って欲しいと思います。弱毒性ウイルスの場合は、おそらく感染者の1−2割は熱が出ないはずです。普通の風邪と見分けがつきませんので、油断すると感染します。
(症状が出たら)
症状があって感染が疑われる場合は、
@病院に電話してから受診、
Aマスクやビニール袋などを用意、
B車の中で待機して中に入るタイミングを調整、
といった面倒な手順を守っていただきたいと思います。感染を拡げないためです。抗ウイルス薬の効果が出るかどうかは、ウイルスの耐性やウイルスが増殖する場所、薬を開始する時期によりますが、明らかな過敏症がなければ使うことも考えるべきです。
(対策の問題点)
偉そうな言い方になりますが、現在のウイルス対策には以下のような問題点があると思います。
@国の要求、命令内容が不明、
A流行の拡大は早い、
Bワクチンが間に合わない可能性がある、
C毒性の判定方法が曖昧、
D感染者の隔離方法、
Eパニックを管理できない可能性もある
@(強制内容が不明)
国は初期治療を担当する登録医療機関に、診療を強制する場合があると明示しています。強制の詳細な内容は不明です。内容を明かさないまま文書に明記するのは、具体的に想定できていないか、指示に従わせる根拠として‘強制’という言葉を入れているだけかもしれませんし、隠れた意図があるのかも知れません。 衛生管理の工夫を生かすためには、患者同士が接触しないようコントロールし、感染者から一般の人を隔離する工夫、それを可能とする権利が各施設に必要です。しかし強制は、その権利を侵害しかねません。病院の工夫や努力を損ないかねない強制は遠慮したいものです。
A(感染拡大のスピード)
人の移動がさかんな現代では、直ぐに感染が拡大すると考えるべきで、旧来の考え方に基づく検疫の効果は限定的です。インフルエンザでも症状が軽い方は必ずいます。熱などを基準にして検疫しても、あまり意味がありません。といって海外渡航を中止させ、物流を止めるような施策は無理です。発生すれば拡大すると言っても間違いではないと思います。流行が非常に早い場合は、ワクチンは間に合わないはずです。検疫やワクチンの力に期待しても、限界はあります。
B(ワクチンの問題)
新型ウイルスに対するワクチンの製造が上手くいくかも分かりません。間に合わないのが当たり前で、間に合ったら幸運と考えたほうが良いと思います。前回の新型(A/H1N1)ウイルスの発生時には、ワクチンが不足したため海外から購入し、結局は意味を失って無駄にしました。当時は短期間で増産できる体制がありませんでしたし、流通の仕組みが複雑で製品の規格も不都合、注文しても届くか病院には分からない、したがって接種の予約もできない、そのような困った状態に陥りました。ワクチンを作る方法を複数用意し、生産ラインに余裕を持たせて緊急増産が可能なように製薬会社とうち合わせ、その生産能力を日々公表してくれると安心です。生産から出荷まで、今でも半年くらいは要するようです。それから接種を始めても、流行の拡がりに追いつくのか分かりません。
C(ウイルスの毒性)
潜伏期の長さや感染経路にもよりますが、一般的傾向として弱毒性ウイルスは感染者が移動するので感染の拡大が早く、強毒性ウイルスは拡がりが遅めの傾向があります。新型ウイルスの性格は発生してみないと分かりませんので、対処法の決定も難しいと言えます。 まず、毒性をどのように表現するか曖昧です。発生までに対処法と併せて段階分けしておくと、対処も分かりやすいなずです。でも、そのような考え方は検討会では主流でないようです。判断に責任が伴うからでしょうか。会議を開いて検討する、場当たり的な対応が採られることになりそうです。すると、会議の結果を待つ無駄や無理が多くなるでしょう。
D(感染者の隔離方法、衛生管理)
本来なら、感染症の診療場所は一般の人と分けるべきです。待合で一般の患者といっしょに待たせると感染を拡大させますから、経営効率を無視してでも衛生管理をすべきです。実際に別扱いすると、差別され不平等だと感じる方が多いので、イメージの面から踏み切れない病院も多いのですが、なおざりな対応は医業の理念から外れています。当院では診察で部屋を分けています。御家庭や車の中でも感染を拡げない工夫をすべきです。習慣づけるために、普通の感染症でも考えるべきではないでしょうか?
E(パニック、心理的問題)
報道の仕方に、自主規制による事前のルールを決めるべきと思います。前回の新型インフルエンザは、比較的弱めの毒性でした。それでも感染すると高熱が出る方は多く、死者も発生しましたので、感染した自分を差し置いて血圧の診療をするのは許せない、あるいは自分はワクチンを接種する権利があり、準備するのが病院の義務であると強硬に主張する人も多数おられました。いずれも気持ちを考えると理解できます。でも、現場を混乱させる弊害がありますので、焦ってパニックに陥らないよう、お願いしたい気持ちです。
ウイルスの性格がどう変化するか分かりませんが、インフルエンザウイルスに限れば、基本的には報告された組み合わせの範囲内でしか変化しないはずです。普通のインフルエンザでも亡くなる人はいますから安易に考えてはいけませんが、過去に人類が経験していないウイルスは滅多に出現するものではなく、ゾンビ映画のようなパニックに陥る必要はないと思います。
診療所便り 平成26年4月分より・・・・(2014.04.30up)