飽和脂肪酸、トランス脂肪酸 
 
(トランス脂肪酸の害) 飽和脂肪酸は良くないので動物性油脂を減らせ、植物油を摂取しなさい、マーガリンを使いなさいと指導された時期がありました。でも、それは間違いだったかも知れません。
日本の場合、食物性油脂にトランス脂肪酸が多く含まれることがあるため、動物性か植物性かの違いより、トランス脂肪酸の影響があるからです。  飽和脂肪酸は死亡率に影響せず、トランス脂肪酸を含む不飽和脂肪酸のほうが病気(心臓病や死亡率)を増やすという発表がありました(BMJ2015; 351;h3978)。
植物性油脂だから健康的と短絡的に考えるのは、正しくなかったということです。 脂肪酸の影響に関しては他にも意見がありますので、この論文を唯一の根拠とすることはできませんが、トランス脂肪酸の制限が甘い日本の食品政策は、そろそろ対応を考えるべきかと思います。

(飽和脂肪酸の害と益) 肉や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸は、見た目のイメージのせいか、または昔の論文の影響か、死亡率を上げそうなイメージがありました。過去の論文の根拠は、飽和脂肪酸が心筋梗塞の発生率を上げ、インスリン抵抗性も悪化させるらしいといった統計結果によります。でも、過去の統計結果は著しい違いを証明したものではないので、そんなに神経質になる必要はないように思います。
肉類、乳製品を極端に制限すると、血管が脆弱になって脳卒中が増える傾向もあると言われています。また、肉類に含まれる脂溶性ビタミンが足りないと、骨などにも悪影響があります。 

(カロリーの問題) ただし、今日の日本において動物性の脂を積極的に摂取したら、通常はカロリーオーバーになるはずです。今回の研究では明らかにならなかったものの、高カロリーから肥満、高血糖、高血圧などを介しての悪影響は大いに考えられます。摂取量には配慮すべきです。 
そもそも今日、野菜不足、脂肪とカロリー過多は常々問題視されており、動物性植物性を問わず、油脂類全般に必要以上の摂取は控えたほうが無難と思います。 

(発癌)さらに、動物性油脂の発癌への影響も気になります。乳製品は、もしかすると前立腺癌が増えてきた理由のひとつかも知れません。日本に限らず、東アジア地域で大腸癌が増えている理由も、今のところ食事の西洋化以外に原因が考えにくく、そこに動物性油脂の影響がないと考えるのは無理があります。  

今日の日本の一般的な食事内容の方に限れば、油脂類は適量、おそらく必要最小限の量にしたほうが、特に肥満傾向の方には良いと思います。高齢者の中に、古い時代の食事に近い内容で、極端に肉類の摂取が少ない方がおられますが、そのような方は制限をすべきではありません。また、動物性と植物性油脂の割合をどうすべきかは、トランス脂肪酸の含有量にもよるので分かりませんが、少なくとも著しく偏らないほうが良いと思われます。 



  診療所便り 平成27年12月分より・・・(2016.01.01up)